Lemonheads / It's A Shame About Ray (1992)

julien2004-02-20


シアトルのグランジバンド・・・って紹介されてたりするレモンヘッズ。でも、これのどこがグランジなのか私には分かりません。
これは彼らの5枚目のアルバムで、かなりフォーキーなギターロックです。とりあえず自分は4thは持ってるんですけど、こっちははっきり言ってスラッシュメタル。中にはこの作品の萌芽になってるようなものもあるんですけど、ギターの音色は全然違うので、いかにこの作品が彼らにとって転機点になったかが分かるようなものです。
シアトルのバンドですし、彼らの人気がグランジブームに乗ってたのは事実ですけど、雑誌の評価より自分の耳を信じろ、っていう典型的なパターンですね。

フォーキーながら勢いのある曲も多いし、その独特なギターがメロディアスな曲に乗るところに彼らだけの個性を確立してると思う。グランジよりはパブロックに近いです。

あ、さっきから「彼ら」って言ってますけど、実際にはレモンヘッズ=Evan Dandoって人のワンマンバンド。ただ、この作品はドラムのDavid Ryanとイヴァンの恋人でもあったJuliana Hatfieldの影響大。その辺りがイヴァンのいいとこで、これだけの才能を持った人なのに、他の仲間がいて初めて実力を発揮できるというか、その辺に親しみが沸いてしまうというか。
次の作品でも彼らの協力を得ていい作品を作るんですが、人気が出すぎて、イヴァンがセックスシンボルになってしまう(笑)それが物凄く嫌だったらしくて、結局レモンヘッズは勢いの失った作品をもうひとつ残して解散。セクシーな男なのに、素が真面目というか、カート・コバーンとどこか似てますね。重いメッセージを歌わなかったことが二人の人生を変えたのかもしれない。

とりあえず、この世代の人達って、何か悲しいものを抱えすぎてる気がします。前の世代のハードコア勢とも違うし、その後のPavement達とも違う。どこにでもいそうな普通の人達が、無理やり世代の代表にされてるような悲劇を感じます・・・勿論、実際に彼らが普通の人だったわけはないんですけど、「普通」を演じさせられているというか。。。。ロックが親近感を持って語られすぎたんじゃないのかな。世代の代弁者とか、そんなふうに語られすぎた気がする。でも、作品は個人の表現だから。どっかで距離感を取ることは、お互いにとって必要なんじゃないかと思う。
普通を演じなきゃいけないこと自体、もう普通なんかじゃないってことかな。綿矢りさが「私は普通の大学生」って言うのを聞いて意味もなく悲しくなった。

カート・コバーンの自殺がキリストのそれと重なって見えたりするのは、個人的には嫌だったりします。音楽を通して何かを共有しようとするのはやめたいとか思ってしまう。最後に待ってるのは悲劇ばかりに思えて悲しくなってくるんです。レイブやクラブでの一体感の気持ち良さの向こう側には、暗い闇の淵が拡がってるのかもしれない。本当になんで死んだんだよ、カート・・・分からないことだらけだ。
ちなみに、イギリスのシューゲイザー勢が持っていた「普通人メンタリティ」とも通じる部分は確実にあるけど、その辺りはアメリカとイギリスの内情の違いが反映されてる気がする。

・・・なんか、レモンヘッズよりもニルヴァーナについて書いてしまった気がしますね。でも、イヴァンが背負ったものもカートと同じってことを感じていました。ニルヴァーナだけに背負わせるのが、私はカートが可哀想で嫌なんです。それに、死んだのはカートだけで、「生き残った」人たちのことを考えたっていいと思う。この時代の音は、個人的にやたら重く感じるんですよね。なぜか。
ちなみにイヴァンは最近ソロで復帰しました。そっちは聞いてないので判断できず。
ASIN:B000002IUZ