誘うもの

julien2008-02-25

0005 Petula Clark "Downtown" (1964)

この曲は誘う曲、ダウンタウンという言葉が魔法のように響いた時代に、聞く人の心を誘う曲。そこに行けばなんでもある、たった独りで孤独な人、そこには誰かがいて、喜びが溢れ、そこでは何も失うものもない。
ダウンタウンは確かにいつも華やか、ニューヨークでもロンドンでも、パリでもベルリンでも。東京ではどこが下町なのか、広すぎるこの街にはそういう場所があちこちにある、渋谷、新宿、池袋、昔の六本木。この曲にいちばん合うのは渋谷だろうか、確かにそこではみんな悩み事を忘れて笑う、私もある時期まであそこにいけば何か楽だった、ある時期からかえって孤独になった。それ以来、もう僕にはダウンタウンは無くなってしまったのかもしれない。
でも、この曲は誘う、1964年のロンドンはスウィングしていたのだ。属に言う「スウィンギング・ロンドン」、ビートルズが、ローリング・ストーンズが、キンクスが、ダスティ・スプリングフィールドが、あの喧噪のなかにいた。そこにあったダウンタウン。モッズどもはクダを巻いて街角、ダンスホールに溢れ、町中をヴェズパに跨がって疾駆していたダウンタウン。いまどこにある?どこにもないのは当然だが、今もこの感情は、この歌の存在する場所はある。
この時代の音楽が歌ったのは何も反抗心だけじゃない、ダウンタウンは汚いところから、こんなに夢と希望に溢れる、そんなふうに見えて人々を夢中にさせた、そんな場所に変貌した。
この曲は、だからひとつの風景画であって、そこからいまも彼女が手を伸ばして誰かを誘っている。