終わりなんてないこと

julien2008-02-22

0003 Todd Rundgren "Hello, It's Me" (1973・原曲1968 by Nazz)

Lost In Translation』の前の作品『Virgin Suiside』のなかで、この曲が流れるシーンはあまりにベタ、ベタすぎてかえって感動した。ほとんど囚われの身だった少女たちに男の子が電話越しにこの曲のレコードをかける。
「やぁ、僕だよ」
トッド・ラングレンは異様な衣装とメイクでこんなうたを歌う。彼は長い顔で美男子ではない。マルチにどんな楽器でも演奏し、これだけの声と歌唱を持つ。昔、ビートルズに憧れた少年はこんな歌を書いていた。「君はさよならって言うけど、僕はやあっていうんだ」と言われて、彼もやあって言うのだ。僕だよ、僕だ。
この曲のオリジナルは、彼がナッズというバンドをやっていたころに書かれたもので、そちらはまるでビーチ・ボーイズのような、バーバンク・サウンドのような、メロウでスローなソフトロック。
そちらはそんなに売れなかった。彼は五年後に、また同じ電話をかけたのか、「僕だよ」
この曲は、もちろん願うものの歌。もう一度を願う彼の歌。
歌詞を見ればわかるように、この曲の相手とは、もう終わりそうな恋の終末。「僕のことを考えてよ」
けれど、それは誰かの視線、客観的な僕らの視線であって、彼、つまり「僕だよ」と言うその「僕」にはそんなこと見えはしない。
終わりそうな恋、終わってしまった恋も、彼には終わってなどいない、じゃなければ、この曲はもっと哀しい悲痛なものになるはずなのに、でも、こんなに優しく美しい。誰かを想う気持ちは、いつもこんなもの、終わっていないことはこんなに美しい。終末に終わろうとも美しいもの。

こんな曲は一生に一度しか書けないし、歌えない。でも、彼はそれを歌い直した。
何も終わっていないから。届けなかった言葉は最期まで伝えなきゃいけない。
彼女は答えたんだろうか。僕にはわからない、でも、続きを夢見ることは、この曲を聞く人の自由だから。