ポップス奥の細道 〜十六日目

084 Johnny Preston / "Running Bear" (1959)


この曲のドラムやバックで繰り返される声、付けられた邦題「悲しきインディアン」なんていうあたりに、当時の日本人が西部劇やらでイメージしていたものがわかります。ただ、音質は悪い。
ただ「悲しき」という割には切ないわけでも暗いわけでもなく、小学生の合唱曲のような雰囲気もあり。昔の逸話を物語っていく歌詞です。ランニングベアというのはネイティブ系アメリカ人青年の名前。まるで七夕のように川に引き裂かれた二人の恋人が、勇気を振り絞って川に飛び込み、途中で逢うものの二人とも流されてしまうという話。つまり、もう二人はずっと一緒にいられるということですが。。ポスコロ、とかつまらないことは言わない。
それにしても、本当に色んな曲がある。今のように全米チャートが統合されていなかった時代だとしても、様々な曲が時代を織り成す様は素晴らしいです。

085 The Flamingos / "I Only Have Eyes For You" (1959)


この曲、30年代の映画の主題歌の素晴らしいカバーですが、メロウでロマンティックと書いてしまえばそのままで他の曲とも変わらなくなってしまう。
まずメイン・ヴォーカルの歌い方はほとんどソウル。そして、バック・コーラスの時にはリズムを刻むように歌い、時にはロマンティックにハーモニーを奏でるといった合唱ははっきり言ってパーフェクト。
そして、この転調する美しすぎるメロディを進行させるサウンドの妙、霧の奥から響いてくるような音の響き、シンプルなようで複雑に音が絡み合ってゆく様、これを普通のポップ・ソングと切るわけには、どう考えてもできない。ドゥワップ全盛期が生んだ最高の曲の一つでしょう。こういう曲は他の時代にはない。驚愕の名曲。


086 Jimmy Jones / "Handy Man" (1960)

087 Jimmy Jones / "Good Timin'" (1960)


60年代の最初は九ちゃんの師匠、ジミー・ジョーンズから。もちろんあの「素敵なタイミング♪」はこの人の087がオリジナル。
で、聞いてみれば、ほとんどの日本人はどれくらい九ちゃんがこの人(とデル・シャノン)をモデルにしていたのか分かる。要するに、あのファルセット・ヴォイス。で、それ以上に跳ねるようにリズミカルな歌。
086は彼の通称「ハンディ・マン」の由来になった。でも、長い音楽活動とこれだけの音楽性を持ちながら、彼がポップ・スターとして評価されたのはこの2曲だけ。つまり、ポップな時代というのは、それくらいに多くの人が輝き、同時に捨てられていった時代と言える。売れればいいわけじゃない、というのはよく聞くが、売れるのがどれくらいたいへんなのか、それも空前絶後のポップ黄金時代に名前を残すのがどれくらいたいへんなのかがよく分かる。ポップだからといって、適当なわけじゃあないんだな。みんな真剣。そして、だからこそ、この時代のなかで輝いた曲はいつまでたっても色褪せないんだと僕は思う。