ポップス奥の細道 〜初日

なんだかかわべさんが昔から書かれてる企画のサル真似みたいではあるが、せっかくリスト作ったんだし、少しづつ書いてみようと筆を取る。
芭蕉は歌枕を旅しましたが、音楽好きなら名曲巡りもどうだろうか。昔、私的に音楽史を書いたりしましたが、その紀行文編ということでやってみよう。
ちなみに主観的な基準より、有名曲、特に売れた曲中心でやります。ぶらり途中下車じゃない。観光ガイド本見ながら行くんだ。たまにはいいでしょう、そういうのも。ガイド本はかまち潤さんの『20世紀ポップス名曲事典』です。感謝感謝雨あられ。名著。

001 Bill Haley & His Comets / "Rock Around The Clock" (1955)


史上最初のロックンロール、というわけではないでしょうね。ただ、間違いなくロックとしての最初のヒット曲。
歴史の最初にはきっかけが欲しい。ビッグバンのような強烈なものが。そして、こういう曲から歴史が始まるということに、真実を超えたものを感じるわけです。だから、何が始まりかなんていうのはどうでもいいことで、これがそうだとされているってことのほうが重要なんです。
とにかく物凄く黒い。ビル・ヘイリーはカントリーに見切りつけてこういうダンスミュージックを作り始めたんですが、これは高速にしたR&B、ジャズ。ベースの跳ね加減も半端ない。踊るための正しい音楽。50年前の曲だろうと、感情なんて変わんないって。


002 The Platters / "Only You" (1955)

003 The Platters / "The Great Pretender" (1956)

004 The Platters / "Twilight Time" (1958)

005 The Platters / "Smoke Gets In Your Eyes" (1958)


"Only You"と"Smoke Gets In Your Eyes(煙が目にしみる)"を知らない人いないでしょうね。今じゃほぼ死滅したドゥワップの代表曲ですが、実は50年位前の曲だったりする。とにかく名曲だらけのプラターズ
どの曲も永遠の命を与えられてるいるよう。誰にでも分かるような気持ちを歌っていて、時代からも場所からも隔絶されたようなここにも響いてくるのはなんでだろうか。
このゆったりしたリズムにハートを合わせていると、こういう気持ちもあるよね、と思う。こんな気持ちで人を好きになれたらと思う(無理っぽいですが)。性急にではなく、ゆったりと。刹那でなく、もっと時間をかけて。
時代に合わせてビートは変わるけれど、このリズムに合わせることもできたほうが楽しい。もちろん、無理矢理ゆっくり生きるのではなく、こんなリズムも持っていられればってことだけど。
ドゥワップ全体について言えることですが、聞いていると本当に時間の流れが変わる気がする。懐かしいというような(まだ生まれてない)そういう感情では聞けないけれど、音は耳で聞くものでも、頭で理解するものでもないし。
ちなみに”グレート・プリテンダー”は黒人グループで史上初めて全米1位になった曲です。今とは時代が違う。マイノリティだった彼らは、こうやって少しづつ音楽に素晴らしいものをくれたってことです。最高のグループとしか言いようがないよな。大好き。


006 The Five Satins / "In The Still Of The Night" (1956)


これもドゥワップ。僕は不勉強なので、この人達の曲はこれしか知りませんが。
なんでもリーダーのフレッド・パリスがこの美しいメロディを思いついたのは、軍隊に徴兵されたある夜のことだったらしい。別にふわふわと恋愛をしている中から生まれたメロディっていうだけじゃないんですね。メロディの底に切なさがあるのは、そんな理由からなのかもしれません。
ラスカルズのフェリックス・キャバリエは、この曲が流れるなかで育ったらしい。そして、ハーモニーグループの伝統って、いまでもひっそり続いていたりもする。BSBとかね。そして、それでいいんだと思う。合唱って美しいです。



007 Chuck Berry / "Maybellene" (1955)

008 Chuck Berry / "Rock And Roll Music" (1957)

009 Chuck Berry / "Sweet Little Sixteen" (1958)

010 Chuck Berry / "Johnny B. Goode" (1958)


ロックンロール=ギター、っていうイメージはここから始まるのです。そう思いながら聞くと、やはり違う。といいつつ、彼のギターはひたすらリズムを刻むわけで、やはりここにあるのもダンス。ロックが観念と化す前の、暴動を連想させるような猥雑さなのかな。いや、違うでしょう。今を楽しもうっていう気持ちだけ。適当に言ってるというより、難しく考えるのが意味なく思えてくるんです。くだらないロックを聞いて萎えた後には、チャックを聞くのがいちばん良い。
チャックには「ロックをやるんだ、暴れるんだ」とか、そういう気負いは一切なし。もうやりたいからやる、これをやる、正しいんじゃなく楽しいからやる。で、それがこれ。もう完璧。
”メイベリーン”はカントリーをアレンジしたもの。でも、誰もそんな風に思わない。最高の”スウィート・リトル・シックスティーン”は黄色いドレスの少女を歌ったもの。で、”ジョニー・B・グッド”はチャック自身への応援歌。うーん、最高のテーマソングだ。
本当に最高。この人聞いてると、生まれてきて良かったってほんと思う(音楽はそう思う瞬間の連続ですが)。