「美は乱調にあり」

julien2004-07-15

昨日に続いてクラシックのこと色々。


俺がいちばん嫌なのは「音楽はどんなのを聞かれるんですか?」とか、かしこまって言う人に限って、「ロックとかクラシック」って答えると、クラシックにだけ反応されることですね。
「クラシック=高尚」みたいな感覚が世間一般にはあるらしい。
さらに厄介なのが、クラシックというのは黄金期ポップスみたいなもので、カバーされるのが当たり前の音楽だ。
(というより、カバー以外にはほぼ存在し無い。「オリジナル」と言えるのは、録音技術が開発されて以降の作曲家だけ。信じがたいんですが、マーラーの自作自演はあったりします。1910年あたりの録音だったような)
例えばベートーベンの『運命』。もうね、何枚アルバムあるか分かりませんよ。アルトゥール・ニキシュから始まって、フルトヴェングラートスカニーニクレンペラーベームカラヤンバーンスタインチェリビダッケクライバー。大巨人的指揮者でこの曲を録音しなかった人なんていない。
で、通というものは、そこにはまり込む。僕自身は3種類しか持ってないけど、マニアは恐ろしい。だから、話が本当に一般的じゃなくなるのです。
「(ベートーベンの)『運命』はねー」みたいな使われ方はあまりしない。
「(ベートーベンの)『運命』のねー」なのである。
で、フルヴェンはベートーベン以上に偉大だったりする。
こういう話をされると、俺もそれに合わせちゃうので、
「良いご趣味をお持ち」みたいな意味不明の共同体に巻き込まれてしまう。
でも、実際に聞き込んでる方は、そんなに偏見ないんですよ。


また、こんなことも。
或る日にはサントリーホールに行く。すると、俺くらいの年齢はほとんどいないんですね。いたとしても音大生のオーラが出てるような人で、どうにも一般とは思えない。大学病院に医大生がいるようなもので。
結局、クラシックに世間的な支持は無いんですよ。だから、余計に意固地になって「高尚です」みたいに言う。でも、高尚って音楽を直接形容する言葉じゃないよね。かといって、葉加瀬太郎みたいのも困る。やっぱりポップスとは違うんです。どっちが良い悪いじゃないけど、甘ったるいだけのクラシック風音楽は、人工甘味料をまぶせた京菓子みたいなもんだ。


こんなこともあった。
確か高生の時、英語の時間で「あなたの好きな音楽を一曲かけてください」みたいなのがあった。外国人の先生で、説明から質問まで英語でやるのだ。
ビー○だとかなんだかんだ続いた後、モーツァルトの『ジュピター』が来てビックリした。これを持ってきた彼は、「僕はポップスなんて下衆なもんは聞かないんですよ。これこそ音楽ですよ」みたいなことを言った。へー、そりゃモーツァルトは大好きですよ。でも、なんでポップスがくだらないの?
あんまりむかついたんで、恥をかかせてやろうと思った。
って、別に「指揮者は誰?」って聞いただけ。先生は「いい質問だね」。でも、案の定、彼は答えられない。別に聞き方が甘いとか言いたいわけじゃない。半端にえばってるこの男が嫌いだっただけ。


音大生の友達から聞いた話。
キャンパス歩いてくる女の子が持ってるスコアは、たいていショパン。で、男はリスト。可愛い子がショスタコービッチとか持ってたら嬉しくなっちゃうんだけど。


これは少しマニアックな話。
クラシック評論なんか読むと、どうにも変な演奏は愛されない。よく言われるのは、指揮者には二つのタイプがあるんですね。フルトヴェングラー型とトスカニーニ型。二人とも大指揮者で、天才って言っちゃっても構わないんだけど、とにかく仲が悪いので有名だった。フルヴェンがナチスに協力したことなんかもあって、トスカニーニから「ファシスト」呼ばわりされたし、それに対しては「イタリアの狂犬」とトスカニーニは言われた。
まあ、トスカって怖いそうですよね、見るからに。
で、現代はどうかと言えば、もうトスカニーニ型の大勝利ですよ。理由はフルヴェン型の感情を爆発させながら構築性を保つような演奏は真似できないってことなんだけど、スコアに忠実に演奏するのが現代の主流です。これがどうなのか。聞いててもつまらない。
ロマンティズムの死ってヤツです。ソリストも技術優先型ばかり。デフレ状況ですね。
こういう中で輝いて見えるのが、変な演奏する人なんですけど、どうにも嫌われる。「高尚」だとか「構築美」の弊害としか思えません。マーラーなんか、無茶苦茶に演奏したほうがずっと良いと思うんですけど。
まあ、俺が評論家の許光俊好きってこともあるんですけどね。
(ここ面白すぎ→http://mitleid.cool.ne.jp/kyo.htm


不思議なのは、専門の話ならどんなジャンルにでもあるのに、クラシックの場合は鼻持ちならないというか、一言で言うとスノッブな人が多いんです。やたら偉そう。巨大ショップの売り場に行くと分かりますよ。なんかね、クラシックを聞く自分に酔ってる人が物凄く多い。ナルちゃんなんです。


じゃあ、俺は何かって?
単に好きなだけです。ビートルズとベートベーンが肩を組んでたって悪くないって思うのさ。