Manic Street Preachers/ Everything Must Go (1996)

julien2004-04-19


「最初はすぐに戻って来るんだと思っていた。それが1週間、2週間と経つに連れて、「ああ、もうだめなのかもしれない」という思いに変わっていった」
リッチーが失踪した後のことをニッキーがこんな風に語っていたように記憶してます。私が昨日、失踪と死は違うって書いたこととも関係あるんですが、友達とだって毎日顔を合わしてるわけじゃないですから、「いまここにいない」ってことは別に大したことじゃない。でも、そういうのは「元気でいる」っていうことを知っているからなんともないんで、リッチーの失踪を受けたメンバーの感情はそういうものではありませんでした。「死んだわけじゃない」けど「もうどこにもいない」という状態は、なったことがないので何も分かりませんけど、その後のメンバーがしばらく何もできなくなったことから、少しは想像できます。


このアルバムは、それでも前身することを選んだメンバーの姿をそのまま表しています。相変わらずの情緒的なメロディーは彼らがありのままをぶつけたことが伺えるし、でも、ここまで大げさに装飾されたオーケストラは、ジェイムズが「初期の俺達はあまりに無防備で裸でパレードしてるようなものだった。でもRicheyの事件で精神的に消耗して、とにかく無名な存在になりたかった。その時初めて音楽の影に隠れることを自分達に許したんだよ。そうでもしなけりゃ正気を保つことが出来なかったから」って語ることを意味してると思う。こうしてしばらく彼らは「音楽の影に隠れ」ているんです。これは次のアルバムにも言えることで、彼らが本当の意味で自分たちをふたたび音楽の影から出すのは、その次の『Know Your Enemy』まで待たなければなりません。
でも、それでも、このアルバムは先行シングルの"A Design for Life"の大ヒットに続いてミリオン・セラーを記録、この年のベスト・バンドにも選ばれて、マニックスは英国の国民的バンドになってしまう。これはけして彼らが望んでいなかったことで、これはつまらない話ですが、前からのファンと新たなファンの間でも争いが耐えなかったらしい。(ちなみに、マニックスは今でも絶大な人気を持っていて、なぜか日本じゃいまいち売れないんですが。)
ただ、そうした事実が語るように、このアルバムはポップな側面を強く持った素晴らしいもので、楽曲の良さでは全アルバムのなかでも最高かもしれません。何より、タイトルが語るように「すべては過ぎ去らなければならない」のだから前に進もうとしている3人の姿が切なさを超えて力強い。ジャケットの、タイトルの下の何も書かれていない括弧の部分が、悲しみを超えて本当に凄い。
前作と比べれば、ほとんど演奏が出来なかったにも関わらず、いかにこのバンドにとってリッチーの存在が大きかったのかが分かりますし、それを、彼の存在が負のものとして、彼らから大ヒットを遠ざけていたとかいうような嫌な見方もできますが、でも、やはりマニックスは変わってません。ここにリッチーの不在がこれほど大きく影を落としている以上、彼らは、リッチーの不在を背負っていくという形でしかやっていくことができないですし、彼らもそれを否定しないと思う。そして、それは本当に素晴らしいことなんだと思う。人の死を乗り越えていくっていうのは、取替えが効いたり、忘却を許すことなんかじゃないと思うから。

  • Favorite Tracks

これに関しては全曲と言いたいんですが、あえて絞りました。
M1: Blackpool Pier , M2: A Design for Life , M3: Kevin Carter

M5: Everything Must Go , M9: Australia , M12: No Surface All Feeling
ASIN:B000002BMD