Manic Street Preachers / Gold Against the Soul (1993)

julien2004-04-15


レディオヘッドよりも政治的、でも音楽がとんでもなく感傷的なのがマニック・ストリート・プリーチャース(通称マニックス)。現在は3人ですが、そもそもは幼馴染の4人組で、90年にデビュー。この90年という時代にデビューしたことこそが,彼らの将来を決定付けたといっていいと思います。
ジョン・レノンは敗北者の象徴だ」とか、「まともなバンドはガンズとパブリック・エネミーだけだ」とか、問題発言を連発。
ハウス旋風が吹き荒れ、メタルの失墜が言われた時期にガンズみたいなメタルと、ヒップホップのパブリック・エネミーに対してリスペクトを表明するあたりが、そもそも変だし、分かりやすく考えれば、政治性などの精神面をパブリック・エネミーから受け継ぎ、音楽面をガンズのメロディアスなメタルから持ってきたって考えればいいのでしょうが、その後の彼らを考えると、そう単純な話でもなくなるので、もう何がなんやら・・。当初の評価は「アナクロなパンク馬鹿で誇大妄想狂」。

彼らの名前を一躍有名にしたのは「2枚組の1stアルバムを発売し、それを世界で1700万枚売って解散する」という発言と、あまりに大言壮語をするマニックスを疑って「お前らもニセ物だろ?」と挑発した雑誌記者の前で、ギターのRichey James(通称リッチー)が腕にナイフで「4 REAL」と刻みこんだこと(17針の大怪我)。
そうして発売された1st「Generation Terrorists」(今考えると、なんとも現在を示唆したアルバムタイトルですね・・)は絶賛されたものの、さすがに1700枚は売れず、彼らは解散宣言を撤回するはめになる・・・。「惨めだ、無様だ」と言われ始めるのはここからで、実際に彼らが受けた傷は想像以上に大きかったと思う。でも、本当にそんなに売れると彼らが思っていたとは考えられず(インテリ揃いなので)、むしろ、ロックの破滅性や刹那さを、身をもって生きようとしただけなんじゃないかと私は思うのです。ただ、解散してしまうには、音楽に対しての才能と情熱がありすぎて、まだまだ表現し切れなかったってことなんじゃないのかな。

そういう意味でなら、現在の彼らは少しも変わっていないです。無駄だと思いながら、それを無様にやってみせる。彼らがいることが、私みたいな人間にとってどれだけ心強いか、そう思っている人はけして少なくないのです。そう、彼らこそ、私にとってそんなふうに感じることのできる唯一のバンドだし、それはリッチーが失踪して行方不明なままの現在のマニックスに対しても変わることはないです。

マニックスはJames Dean Bradfield(Vo,G),Sean Moore(Dr),Nicky Wire(B),Richey James(RhythmG)の4人。ニッキーとリッチーが書く修辞的で隠喩を駆使した素晴らしい歌詞と、主にジェイムズが書くとんでもなく流暢で壮大でメロディアスな曲の組み合わせ。そこにギターロックの力強さが加わることで、おそろしく説得力のある曲になる。
実を言えば、このアルバムを持ってくることで、私はマニックスファンから「何考えてるの?」とか言われてしまいそう。これはマニックスの「駄作」と言われている2ndで、おおよそ評価は一律に低い(アマゾンでも星3つ・・。)でも、これは、さっき言った「無様な解散撤回」というイメージを被せられたことと、次の作品が素晴らしいことによる相対評価であって、絶対的に評価すれば、素晴らしいメロディを持った曲が多く、どこが駄作なのか私にはさっぱり分かりません。ファン人気1位の"From Despair to Where"はこれに収録されています。あと、何より聞きやすい。初めて彼らを聞きたい人に薦められるとしたら、まずはこのアルバムです。
彼らに対しては思うことが多すぎるので、次回にでも3rdの紹介をします。リッチーの失踪について・・・。

  • Favorite Tracks

M1: Sleepflower , M2: From Despair to Where , M3: La Tristesse Durera ,

M5: Life Becoming a Landslide , M6: Drug Drug Druggy
ASIN:B00000DHUX

蛇足なんでしょうが、このアルバムに書かれているリッチーによるプロローグを下に書きます。児島由紀子さんの訳文をそのまま引用させていただきます。暗い、これは果てしなく暗い。確かにこの暗さは半端じゃないけど、この程度の暗さは生きてく上で必要不可欠なんじゃないのか?と思うんですが。

信念に逆らう物欲。潔白さの喪失。幼年期から成年期にかけて人はすごく自然に振舞う術を忘れてしまう。赤児の口を手で塞げば必死で抗うように。
成年期とはどれだけ長い間、物事に対し投げやりにならずにいられるのか?ということ。下らない消耗品や無意味な成功を手に入れるためにどれだけ無駄な時間を費やすか?ということだ。
自らの人生をえせ神格者のそれになぞられるように−誰でも年に一度は日焼けした肌を誇りたがるように。
子供たちが本物の夢を見ている間に、大人どもは悪夢を見る。
雨や時間や苦痛、そして嫉妬や羨望や失敗が君の想像力を洗い流してしまう。欲望や敗北が君の信念を腐食する。
君がかつてあれだけ欲しがってたものが全て決して自分の手に入らないこと、そんなものは最初からこの世には存在さえしなかったことに気付く。成年期には記憶もなく、君はただの無法者。君がどんなものを欲しがろうが決して手にすることはできない。君がどんなに大切にしているものでもいつかは失ってしまう。
運が良けりゃ錆びついた車や、住んでいるだけで気が滅入りそうなボロ家ぐらいは手に入るかも知れないけど。
ヘタに思考力を得たって余計孤独感が増すだけ。無知で思慮のない議論が泥仕合に終わるように。
君は暗黒の中で悲鳴を上げる。永遠に....。
Richey James