Public Image Limited / Flowers of Romance (1981)

julien2004-03-31


実はこのアルバムの主役はバラの花なんです。きっとバラなんだと思う。バラはどんな場所に置かれてもバラですよね。でも、その「意味」だけは永遠に分からない。日常を支配する文脈の怖さを、私なんかは感じてしまう。

悲しいことに、この時代をリアルに体験できなかった私には、このグループが与えたショック、裏切られた期待のようなものや、否定したくてもできないジワジワと訪れる影響力などに、どんな体験的な裏づけを与えることもできないのです。

Sex Pistolsは当時からパンクの象徴だったし、象徴だったがゆえに一瞬で解散して消えていったのですが、シド・ヴィシャスが死んでもジョニー・ロットンは健在だったし、街は雨後の筍のようなパンクバンドで溢れかえっていました。
ただ、主なパンクロッカーたちはパンクそのものを壊れるべきものと考えていたから、それで問題なかった。Crassのように解散する日まで決めて活動した連中もいましたし、The JamThe Clashは様々な音楽イディオムを引用することで結果的にパンクの解体・発展を目指していた。そして、今回の主役ジョニー・ロットン(クソったれのジョニー)も、名前を本名のジョン・ライドンに戻し、パンクの解体に取り組んだわけです。
ただ、当時の聴衆はそんなこと知らない。ジョニーの新バンドの音を楽しみにしてた。しかし、彼らが紛れ込んでしまった場所は、3コードのパンクサウンドではなく、ダブ、レゲエ、ノイズの入り混じった異質な音空間だったのです。当然、売れないし、みんなは裏切られたと思ったに違いない。でも、時代はそういう方向にしか向かえなかったことが、商業ロックが大氾濫するなかで、そこに距離感を感じる人によってだんだん分かってきたのです。でも、それは後の話。

この3rdアルバムは、初期の、もっとも勢いのあったPILの締めくくりとなる代表作。実はサウンドの要だったベースが抜けたまま作ったものなので、何も置かれていない部屋のなかをドラムとボーカルが響いていくような不思議で呪術的としか言いようのない世界になっています。宗教的とかよく言われてますが、その通り。
とにかく聞いていると不安になってくる。20代前半でこんな孤立した極北の音楽を求めたライドンの心境を考えると恐ろしくなってきます。でも、私はこの泰然とした佇まいがすごく好きですね。

実は現行盤のジャケットは本来のものとは違っています。このジャケットを見ると、バランス的に女性のほうに中心が置かれていますが、本来の主役は彼女がくわえているバラにありました。つまり、このジャケットを時計方向に90度回転させたものが本来のものなのです。確かに、今のもののほうがバランスはよいのですが、これを変えた人はこのアルバムのことを何も分かっていないとしかいえません。視覚的な美意識だけで、変更したんでしょう。でも、このアルバムに安定はまったく似あわないのです。
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