Wire / Chairs Missing (1978)


シンメトリックなこのジャケットを見ても、彼らがパンクの流れから出てきたことが信じられない。詩的でシュールなタイトルには、アートや文学の薫が満ちています。
Gang of Fourを先取りしたようなギターで始まるこのアルバムは、1stの1曲平均2分の曲でショックを与えた彼らが、たった1年で驚くべき進化を遂げたことを物語っています。実験的でシュールなサウンドが、「パンクじゃなければなんでもいい」っていう彼らのスタイルを代弁しているし、PILで変貌を遂げたジョニー・ロットン改めジョン・ライドンとは方向性にこそ違いはあっても、「新しい波」を産み出そうとしていたことで共通していた彼らのハートを感じられます。もう物凄く好きですね、これ。
こう書くと単なる物好きな人向けのアルバムのように思われがちですし、ピストルズを聞いた流れでPILを聞いた人が感じるあの戸惑いを思い出させてしまうようですが、彼らの魅力は、もう唯一無比のポップな曲にもあるんです。
このアルバムにも「Outdoor Minor」「I Feel Mysterious Today
といった不思議で切ない感じの、浮遊感に満ちた名曲があって、やけに冷めてる感触のシュールな歌詞と相まって、もうたまらないほどの魅力に溢れています。
私がいちばん好きな曲は、初期Wire最後のアルバムである3rdに入っている「Map Ref.41゜N 93゜W」で、これはMy Bloody Valentineもカバーしています。もう、こんな曲を書けるのは間違いなくWireだけで、どことなくThe Carsに似てる気がしないでもないんですが、このクールで知的でアートな感じは、単に「音楽をやりたい」とかいう情熱だけでは絶対に産み出せないでしょうね。音楽をすることが表現としてもっともエネルギーを持っていた時代の終わり頃に、表れて消えていったWire(まあ、再結成していまでも活動中ですが)に今日を捧げます。