Keren Ann / La Disparition (2002)


バンジャマンと公私に渡ってパートナーだったのが、ケレン・アン
去年発売された英語圏向けアルバムについては以前にも触れたので、今回は彼女の2ndを。
20年に一人の逸材とも呼ばれる彼女は、モノクロ・セピアなジャケットのなかでフレンチとしか言いようのない60年代風の服装をしています。ジャケットを包む白と紫の組み合わせが、どこか物憂げで、部屋の隅にさりげなく置かれたポプリのような、不思議な佇まい。でも、タイトルは「La Disparition」・・・《消滅》。。
バンジャマンのアルバムとは違って、SSW的なアコースティックサウンドのどこに、そんな暗い影が落ちているのかと考えて、それはプライベートの彼女にとっての何かであったとしか、やはり思えない。最後の曲の歌詞のなかの、死を意識しながらも、生を求める彼女のように。
この作品の発表直前に、バンジャマンは故マルチェロ・マストロヤンニの娘と結婚します。そして、彼女とバンジャマンの協力関係は「消滅」し、彼女は英語圏を意識したアルバムを発表する。。でも、そこには彼とともに作った曲が数曲含まれたまま。


何かが消滅するっていうのは、なんなんだろう。記憶は消滅せず、形を変えて残る。不在が、不在そのもとして、そこには残る。
棄てられたポプリの残り香のように、表面では忘れられたまま、でもそこには、かすかな記憶が漂う。
永遠を約束されたものは、形は変え、現在にしかない色彩は失われて、いつまでもそこに残る。
消滅は、不在を漂わせながら、モノクロになって残るものたちの合唱なのかもしれない。記憶は、多くのものを喚起しながら、それでも時間は今もここで続いていくのだから。


去年発売された英語盤のタイトルは『Not Going Anywhere』。これは彼女のことじゃないよね。私はそう信じたい。「どこにも行かない」のは、思い出だけでいいから。
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