遠くて近いもの

夜のこと、これを書くにはやや抵抗が出てきてしまった。

そうだな、例えばカーテンの向こう側、と書くとすると、それは昼間も変わらないことだったりする。というのも、そういう時間はどこかに確かにあって、その頃のこと、その場所のことを書こうとしても、指先が言うことを聞かない。
闇は闇、しかし、明かりを付ければ見えるものはある。たぶん、夜はそういうものだろう。確かに違う。
あの時の君、君が見ていた世界はどれだけ変わったのかな?翼を求めていた君は、崖に追い込まれていたのかな?振り返る時間はあっただろう。そして、僕は知ってる。君は誰にも追われていなかった。君は、闇の向こう側、地球の反対側へ飛んで行けば、そこはいつも暑いくらいに光や熱が君を溶かすこと、それくらい知っていただろうから。蝋で固めたものは要らなかった、って言うのは、それはきっと本の重みで潰れてただけだろう、ね。
ん、その目は?自分だって重いんだろう、って?
そうなのかもしれない。でも、光は好きだよ。朝ってやつ、光にたゆたう煙草の煙、綺麗だよ。
でも重いのは、気のせい。軽くなる。君のなかに流れてた血は、君を軽くする。
待っててごらん。そのままでいい。君が望む場所に行くがいいよ。
君はかならず雨のなか、傘差して買い物に行くってことが、ただ、きっと嬉しくてたまらなくなる。
もう、泣かなくてすむかって?それは違うよ。それは違う。でも、一人で泣くだけじゃないよ。
自由になるかって?それも違うよ。でも、僕は君を否定してるんじゃないんだ。
否定じゃない。分かるよ。
なぜって、僕は少しくらい分かったから。


ん、自分のことを書くのはしんどい。ここにいて、見つめてくれても、僕は君を裏切ってないと思うよ。
部屋にいると、そういう遠い自分自身が見つめているようで、言葉が必要だったのかもしれない。
そして、君が守ってきたものを、僕は大切にして、後悔しないようにちゃんと探してた人に渡したよ。
だから、安心しておやすみ。
あのたくさんの夜は、遠くて近い。