4月になって

4月になって生活が変わって、朝から夜までほぼ大学院にいますが、とりあえず順調です。
何をすれば(学べば)いいのかを自分なりに感覚的にも分かってきて、去年までの予備校での勉強との違いに、僕は嬉しい戸惑いを覚えています。
先生のなかには法学と法務がきっちり分かれていない人もいたりと、全部を言う通りに合わせたら時間がなくなるよという人もいますが、話を聞いていて衝撃を受ける人も多い。
特に、民法では(特に損害賠償理論では)並ぶもののないくらいに有名なH先生の話を僕は一生忘れることはないと思う。
要約すれば、

「世の中は、人々の欲望をすべて満たせるほどには物がない。そのためには、必ず、誰かから何かを奪い、誰かに何かを与えなければならない。
どのようにそれを決めるのか、限られた物をどのように分けるのか、そのために人々は制度を作ってきた。けれど、それはできるだけ効率的に、加えて不公平にならないようにしなければならない。
人々がそのために作った制度は、大きく分けると、交換するか、支配して奪うか、の二つ。
具体的に、たとえば、誰かが人々を守るために戦争の最前線に行かなければならないとすると、その人は命を失うかもしれない危険を背負う。昔は、支配者の命令でそれが決められたが、現在は、高い報酬と「引換」で行くことを「自分の意思」で決める。つまり、ここでは、契約=交換がなされている。

けれど、これがいかに欺瞞に満ちたものであるかは、分かるだろう。そして、こんな話を聞かされた人は、みな気分を害するだろう。なぜなら、この残酷さを覆い隠すために、交換という形でなされているのだから。
それでも、君たちは、こういう制度に隠された欺瞞を見抜いてほしい。そして、これが、やむをえないものなのだと、引き受けて欲しい。そうやって、引き受ける自分に酔ってほしい、なおかつ、酔っているような自分を自覚してほしい。」


最後の「酔ってほしい」から先で、僕は涙が出そうになりました。
先生の教え子たちは、大学の関係上、ほとんどが役人になったそうで、さらに彼らは、先生の授業で習ったことは社会では役に立たない、と正直に言ったそうです。だから先生は、僕らにも、こういうことは試験のための役には一切立たない、と繰り返し述べていました。
それでも、僕はここで先生から言われたことを、忘れることは一生無いと思う。
これを役に立てるように生きて、どれくらい先生の言葉が僕を支えてくれたのかを、いつの日か伝えられたら、と心から思う。