ショパン

昨年のショパンコンクール入賞者のガラ・コンサートに行ってきました。場所は東京オペラシティ
以前からクラシックに一緒に行く方と合流してからホールに入る。客層は随分と幅広くて、音大生らしき顔触れも多いし、子供連れの母親、有名なピアニスト、業界関係者らしき人々など、さすがに一種のお祭りコンサートで多種済々。席は5列目の左寄りで、ピアニストの指の動きが綺麗に見ることのできる良い場所でした。


一人目は4位の関本昌平。演目はいきなりピアノ協奏曲第1番ホ短調
関本君は音は綺麗ですが、演奏姿を見ていても、ちょっと自分に酔ってるかなあとも思う。その割りに、一音一音がそれほどクリアでもないので、濁って聞こえる箇所も多い。低音を無駄にしているような印象です。ただ、それは彼の技量自体というよりも、オケとの呼吸があっていないせいです。場数踏んでないから仕方ないのかなあ、とその時は思った。
が、実は、それ以上に、オケがいじわるだった、というのは、最後に分かることになります。
アンコールはなんだか分からない。構造がフーガだったような記憶なので、バッハなのかな。どうにも勉強不足ですみません。で、どの音も平坦で、あまり良い印象は残りませんでした。


休憩を挟んで二人目は、同じく4位の山本貴志。演目は彼だけ協奏曲ではなく、ノクターン第6番とスケルツォの第4番。さりげなく、ピアノもヤマハに変わっていました。
山本君はずいぶん小柄な少年のような感じで、どうなんだろうと思いきや、スケルツォが凄い。長い曲だけに、全体のバランスに若干のぶれがありましたが、後半には感嘆しました。
素晴らしい。クリスタルガラスのように曲が構築されて、ため息が出る。
会場の反応も良かったようで、下手に協奏曲をやるよりも、彼のピアノが伝わってきました。今後に注目したいです。時間が短すぎたのが残念ですね。


続けて3人目が、3位のイム・ドンヒョク。演目はピアノ協奏曲第2番
にこにこというよりへらへらした感じの笑顔で出てきて、体系もひょろひょろっとしているので、うーん、大丈夫かなあと思って、聞き始めましたが、数分後には言葉を無くしてしまいました。
第二楽章では涙が出てきた。技術、作品への理解、オケとの呼吸というようなことは言わずもがな、ほとばしるような情熱が全体を濃密に支配しながら、べたべたしない。
正直、第2番がこれほど凄い曲だとは思わなかった。終わった瞬間に「うをー」と叫んでしまいました(ブラボーは恥ずかしいので言わない)。
もう、ここでコンサートが終わっても十分に満足でした。
で、笑ったのは、アンコールが冬ソナ。で、これが凄まじく美しい。もう少し、観客が反応すりゃさらによかったのに。


またまた休憩を挟んで、1位のラファウ・ブレハッチ登場。演目は関本君と同じに第1番。
写真通り(以上かも)の老け顔で、とても二十歳には見えません。でも、「ショパンの再来だ」と言われる顔に、どこか神経質そうで繊細な雰囲気は、実物のほうが凄い。
でもって、さらに凄いのが演奏。
言葉ないです。オーラも技術も格が違う。あまりに明確でクリアな音、強靭な連弾、速い上にバランスも崩れない。オケとの呼吸もぴったりで、到底二十歳とは思えない。こういうのを天才というのか、と思い知らされたような気分です。

が、スマートかつバランスがうますぎて、情熱をあまり感じない。文句の付けようもないんですが、涙が出てくるほどの感動がいまひとつない。イム君の演奏に泣いたあとだったから、余計にそう感じたのかもしれませんが。

で、それ以上に「おいおい・・」と思ったのが、オケのテンションですね。関本君の時と違いすぎだろう、と。物凄く、抑揚を上手に付けて、ブレハッチの演奏を支える。ここまでくると、プログラムといい、関本君はブレハッチの引き立て役?としか思えない。確かに、演奏もブレハッチのほうが上なのかもしれませんが、ちょっとひどいですね。

アンコールはワルツなど3曲。ただ、最後にやった子犬のワルツでのルバートのかけ方などを聞いていると、協奏曲でのスマートな演奏はなんだったのかと疑問にも感じましたが、どれも文句無しに凄かったのは間違いない。



総評。大満足。3時間半というオペラ並みの公演時間でしたが、これで12000円なら、高いと思わない。関本君は実力がどうなのか分からなくなりましたが、他の三人は素晴らしかった。ブレハッチは僕が何も言わなくても、大ピアニストになるのが間違いないですが、個人的にはイム・ドンヒョクです。ブレハッチとタイプが違うのは明白だけれど、1位と3位という差がどこまであるのかは微妙な気がする。僕は、ああいうピアノをこそ、もっともっと聞きたい。
同じく3位になった兄のイム・ドンミン(今回は不参加)との兄弟コンサートでもやってほしい。絶対に行きますので。