共謀罪とM&A

解散で一度は廃案になった共謀罪関連の刑法改正案が、また審議中になっている。
前に書いたので繰り返しませんけど、刑法は、実務上も特に理論による前提が絶対不可欠に重要なので、新しく構成要件(罪条)を付け加える程度ならともかく、この共謀罪のような共犯理論との統合的な解釈が曖昧なものをこんなに簡単に法制化していいのかと疑問に思う。日弁連も明確に反発していますが、学者の先生方にとっても、この問題は厄介でしょう。法務省刑事局には、もうすこし明確な趣旨なり、統合性を説明していただきたい。実際に立法する国会議員に分かっているはずはないので。
検察やら捜査機関にとっては、治安の低下への対抗策として効果的かもしれませんが、裁判官はどう思っているのでしょうか。もちろん、政治的な発言をすることが許されない方々なので、憶測するしかできませんけど。
とりあえず団体行動をしている人々にとっては、これは意識しておいたほうがいいと思います。一種の未遂処罰が大幅に拡張されることになるので。
大政翼賛会なんて言われてる現在の国会では、この法案があっさり通過する可能性高いですが、郵政民営化なんてものより、もっと重要で危険なものが成立する気もする。私としては、もう少し踏み込んで理解していくしかなさそうですが。


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もう一つ。
TBS買収狙いの楽天と、村上ファンドは別に考えるべきです。マスコミは一緒の扱いをしているように見えますが。
どうもマスコミは、株式、買収、とか来ると、全部同じようなものと括るようです。でも、この二つが同じなわけない。あとは、掘江さんにしても三木谷さんにしても、なぜか村上さんと接点があるし、普通の感覚とはどうも違う面で共通したものを持ってる。だから、似ているものと捉えるのかもしれない。
でも、株式なんていうのはたいていの会社が採用してる制度ですから。どこにいたって人間は空気を吸っているようなものです。空気のように株も至るところにある。
とにかく、この二つがはっきりと異なっているのは、村上ファンドって実体は一般的な意味での企業じゃないですからね。ヘッジファンドです。
投資家から集めた資金を運用して利益を上げるのが生業なので、株を買い占めたりするのは当たり前です。でも、経営には興味がない。ここが、楽天とは根本的に違う。本業はコンサルトなんて言ってるものの、敵対的買収をしかけて経営に口出しするなど、押し売りみたいなもんですから。
勿論、違法ではない。しかし、違法ではないから良いことだ、なんていうのは、法律関係と事実関係を履き違えているだけのことでして。法律ばかりやっていると、そういう発想を平気でする人間が多いんです。困ったことですが。


というわけで村上氏は当たり前のことしてるだけで取り立てて言うこともないし、興味もないので、楽天の話なんですが。
なんで、孫さんにしても堀江さんにしても三木谷さんにしても買収ばかりしてるのかと考えれば、儲けた資金の使い道がないんじゃないですか。アメリカ式といえばその通りで、そういう意味でも日本経済は間違いなく転換期にあるんでしょう。
日本の旧来のシステムだったら、余剰資金は設備投資に回すのが常で、それで高度経済を実現させたんですけど、ネット企業にはおそらく製造業のように大量の資金を回すような設備投資を必要としてない。それに、プロバイダとしての顧客獲得ももう限界が見えているし、これ以上は過当競争になるのが目に見える。少なくとも、楽天ライブドアもこれ以上の拡張は普通に考えてまずありえない。

一方で、そもそもネット企業が何を生産しているのかといえば、かなり怪しいもので、とどのところはテナント業と変わらないわけで、場所(スペース)代と広告費で儲けるしかない。さらに、ネットの可能性といっても、あくまでインフラ的なものであって、新しい製品を生み出したりすることはできない。
にも関わらず、堀江さんも三木谷さんも、メディアという情報の発信源やら、サービスの提供企業を買収しようとする。これには、自分たちが何も生み出せないでいることのコンプレックスもあるんじゃないでしょうか。
ただ、生産のノウハウを知らない人間が社長になっても、競争に勝てるとは思えないし、何より、あの連中にはユーモアがまるでない。経済っていうのは、様々な業種が住み分けてこそ、総合的に成立するんじゃないでしょうか。変なところに資金が集中しすぎてるんですよ。
結局はバブルなんじゃないんですか。楽天はともかく、ライブドアに至っては、企業の実体がなんなのかさえ分からない。明らかに実体以上に資金持ってますから。社団というよりほとんど財団。
僕は発想が古いので、企業の存在意義は商品の製造(サービスなんかも当然に含む)であって、資金の運用で利ざやを稼ぐなんていうのは、隙間的なものでしかないし、経済的にもロクなことがないと思うんですが。
現に、もの作りの根本を変えないトヨタは世界一の企業になって、反面、原点を見失ったソニーはぼろぼろ。


人間を見る限りは、どうなんでしょう。はったりの使い方も、恫喝の使い方も、マスコミに対する対応見てても、政治的な意味での駆け引きは下手です。僕がいちばん衝撃を受けたのは、孫さんの右腕として、例のフジ買収騒動で登場した北尾さんですね。間違いなく、喧嘩慣れしてる。あの人がいちばん恐い。
ちなみに、誰にも文化的なものは期待しません。三木谷さんは野村氏を監督にして操縦できると思っているようですが、昨日、先制攻撃を食らってましたね。力を持っているからって、人間的にどうかは別だなんてことは、たいていの子供でさえ知ってます(教えられてる?)が、まったくその通りと言った感じでして。。


とりあえず個人的には、メキシコのように国を破産させられる前に、ヘッジファンドも無意味な資金運用も、経済法で抑えていくべきかと思います。自由経済だとか小さな政府だとか、金融一辺倒の発想でバカなこと言ってても、儲かるのは一部の人間だけで、無関係な大半の人があおりを受けるだけですからね。欲望ってもんは、一定限度に抑制されなきゃいけないんですよ。
そして、これは少しでも早いほうがいい。戦前の日本は対応が遅れて、気付いた時には、政治家は財閥の番当同然。今だって、金が余ってるんだから、政党への助成だって、官僚への接待だって無限にできる。というか、もう手遅れかも。


あ、10年くらいして、上の何人かが共謀罪で起訴されたりしてたら、これにはまるで笑えない。


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付け加え。
村上さんの言う提案は、株式の本質に適っている(ように聞こえる)し、経営についても、従来の体質に問題があるのは間違いない(カネボウを見れば分かる)。来年以降の新会社法でも、コーポレートガバナンスについて、悲観的で懐疑的な観点から組織が規定されているのは明らか。人間は、金のためには権限を濫用するっていうのが前提になってます。これはやむをえない。効率の上がらない非合理な経営も問題がありすぎるのは間違いない。実質的な所有者である株主の利益に関心が疎いくせに、「わが社」などと言う経営者にも大いに問題がある。
ただね、やはり文化や国ごとの慣習っていうものはあるんですから。正論を唱えるばかりが正しいとはいえない。とりあえずあの人は、金で換算できないものについては理解が疎いのでしょうか。