箱の中

julien2005-10-05

少しづつ気持ちが溶けてきたように感じる。それでも、まだ溶けきれない氷が残ったままだ。だから、温まることは、ない。水面に浮かんでかすかに見える。
部屋に戻ってから、しばらくベッドの上で考えていた。
そして、ひとつ、ふたつ、と指を折りながら、してはいけないことを数え上げてみた。
したことがないからではない。懐かしむ程度が丁度いい。忘れるくらいなら尚のこといい。
それは、均衡を保つために必要なことだ。抑制されるほどに溢れるもの、それなら、いくらでもが溢れるがいい。パンドラが箱の底に見つけたものの名前さえ俺は忘れた。箱いっぱいの退屈に満たされるくらいならば、再び溢れるがいい。今のいままで忘れていたが、ここの名前は狂気だった。
甘くなりすぎた珈琲を薄めるために、砂糖を加える人はいない。
ベッドから起き上がって最初にかけた曲はベルリオーズの幻想。これほどに美しい曲は他にない。最後に辿り着いた場所こそ、覗きこんだ闇そのもの。たった一時間で終わる幻想。これが夢。

箱に残されたものの名前は忘れたが、それは苦難の報酬のこと。暴君が、人間に自殺させないために与えたまやかしだという。そしてそれは鎖の隠喩なのだ、と私は思う。

ただ、それが祈りそのもだと教えてくれた人に、私は感謝します。