ポップス奥の細道 〜十一日目

今日は夜が似合うメロディアスなポップス。あの感覚、今では確実に失われたこの感覚を歌にしていたのはプラターズだけじゃないのでした。特に、クレスツ。これだけは本当に聞いていただきたいです。

064 Bobby Darin / "Dream Lover" (1959)

065 Bobby Darin / "Mack The Knife" (1959)


今日から59年ですが、このボビー・ダーリンは日本じゃほぼ忘れ去られているといえる。というか、名前も曲も全然知らなかった。結論から書けば、超典型的なポップ・シンガー。
ただ、ヒット曲の数は凄いです。顔見ても分かるように、そもそもはアイドルだった人。それが、傑作ロッカ・バラードの064で売れ、さらに065の超ヒット(グラミー受賞曲)でジャジーな大人のポップスを歌うようになりブロードウェイに進出。気付けば「ヤング・シナトラ」なんて呼ばれるようになったという。まあ、興味もたれないのが当然でしょう。丸くてすべすべの石みたい。
064は典型的なポップス循環コードの甘い曲。確かに美しく、良いのですが、悪い意味で売れるのが納得できるような感じ。で、065はミュージカル・ソング以外の何ものでもなく、確かにグラミー受賞が当然の素晴らしい曲には違いない。オリジナルはブレヒトの『三文オペラ』の曲だそうですが、でも、ここに覇気はない。毒もない。うーん、これはちょっと苦手かもしれない。
ただ、ボビーはロックンロールだろうがカントリーだろうがなんでも歌いこなし、ヒットさせたという意味で器用なことは間違いないです。そういう意味で、根本的に世間的な意味でのポップさを感覚として持っていた人なのでしょう。そう考えながら聞くと、また面白いです。


066 Johnny Maestro & The Crests / "16 Candles" (1959)


まず、これは本物の超名曲。ただのポップ・ソングなんかじゃ絶対にない。
ジョニー・マエストロはディオンやスカイライナーズと並んで最高の白人ドゥワップ・シンガーですが、歌唱、ハーモニーの素晴らしさ以上に、これはとにかく曲が凄い。
この切なさはドゥワップ特有ですが、最初の「ハッピ、バースデイ♪」の歌い出しだけ聞くと、「なんだこの暗い誕生日は。。」と驚くものの、その後はスローでメロディアスな独特のグルーブがハートをぞくぞくさせる。
白黒混成の彼らは、いまのミュージシャンと同じく路上でこうした歌を歌っていたそうです。これも立派にストリートから生まれた音。こういう音だからみんなスタジオで作られた音楽だとかいうのは今の偏見です。
それにしても、こんな素敵な16歳の誕生日が送れてたら、って今更ながら思わずにはいられません。ケーキの上の16本のロウソク。色々なものを含んで揺れる炎が目に浮かぶよう。胸を締め付けられそうになる。


067 The Fleetwoods / "Come Softly To Me" (1959)

068 The Fleetwoods / "Mr. Blue" (1959)


068も切なくて締め付けられそうになる名曲。
ハーモニー・グループは男性中心に4人以上といった編成が多いなか、フリートウッズは男1に女2という組み合わせ。それを活かしたような、どこか戦前のアメリカ文学を思わせるような雰囲気があります。歌というよりささやきに近い。
この人たちには、時代を超えたメッセージのようなものは稀薄で、またそうしたメッセージを伝えるような気持ちもないのでしょうが、これはこれで素晴らしい音楽です。
あくまでソフトにドリーミーに、夏の終わりを歌っているかのような歌ばかり。



069 The Skyliners / "Since I Don't Have You" (1959)


これ、日本じゃどうか知りませんけど、海外のオールディーズ・ファンにはとてつもなく有名な曲だそうです。当時の最高位12位にも関わらず、今では人気ナンバーワン。でも、聞いていると分かる気がする。メランコリーな明るさ、切ないだけじゃなく、喜びもある。だって、感情は単純じゃないのです。ここには怒りはない、でも、この感覚。これは紛れもなく少年の失恋の歌です。まるでラーズの「There She Goes」のような。
しつこいようですが、怒りや絶望だけが若者の専売特許なわけではないのでして。いろんな感情抱えて生きていくしかないなかで、何かを極端にして失われるもののほうが大きいと思う。混じりあって、なにがなんだか分からないような感情も、それだけで充分に歌になる。ここには、切なさも喜びも、悲しみも希望もぜんぶある。
曲の話をすれば、これは白人がR&Bチャートで一位になった史上最初の曲です。エミネムがラップ歌ってアフリカ系アメリカ人から支持されるのも、そういう意味じゃこれが原点。さらに、オーケストラをロック(?)に持ち込んだのもこれが最初らしく、しかも録音にはフィル・スペクターがどういうわけか顔を出していたらしい。これは、そういう時代の歌でした。僕の生まれるずっと前に、この曲がラジオから流れて、そして今も流れています。いいね、こういう瞬間に僕は世界を凄く好きになる。