ポップス奥の細道 〜五日目

ロカビリーっていうのは、ヒルビリー(カントリーのこと)とロックンロ−ルを合わせて作った適当なジャンルなんですが、57年になるとそういうジャンルに収まりきらないサウンドが出てくる。つまり、その後を予感させる新たな時代が幕を開けるのです。

028 Jerry Lee Lewis / "Great Balls Of Fire" (1957)

029 Jerry Lee Lewis / "Whole Lotta Shakin' Goin' On" (1957)


まず、この人。リトル・リチャードのように爆発してピアノ弾くといっても、スタイルが違う。パンピン・ピアノというオリジナルのスタイルを確立(というか、誰も真似できない)、映像見たことありますが、踊りながら狂ったようにピアノを叩く。そのくせ、このリズム完璧。一体どうなってるんだろうか。
邦題「火の玉ロック」。無数のロックンロールのなかでも間違いなく頂点にありつづける最強ソング。最初のイントロから鳥肌が立つ。あと、ピアノばかり言われますが、ヴォーカルも唯一無比。音と一体化しているというか、自由奔放であるようで、実は一音一音がはっきりとしてリズムを刻んでる。2回目のサビの終わりの「ファイヤー」のところなんかは、聞くたびに震える。全てがあまりに完璧。
ウィノナ・ライダーが出てた同名タイトルの映画では、彼が13歳のはとこ(ウィノナ)と結婚するまでを描いてましたが、破滅型というか、行動力が一般の枠に収まらないんでしょう。 まさに天才。狂気がまぶしいです。
狭く言えば、エルトン・ジョンベン・フォールズの元祖。ただ、誰も彼をコピーできてはいない。


030 The Everly Brothers / "Bye Bye Love" (1957)

031 The Everly Brothers / "Wake Up Little Susie" (1957)

032 The Everly Brothers / "All I Have To Do Is Dream" (1958)


そしてエヴァリーズ。
この人達は、はっきり言って甘く見られすぎです。プレスリーチャック・ベリーのことは知っているのに、彼らのことを知らないって人が多すぎる。
確かに馴染み安いメロディ、二人の美しいハーモニー、カントリーを基調にしたギターといい、ハードな部分がないのでギターポップのように思われてるのかもしれませんが、それは聞きかたが違うと思う。はっきり言いますが、彼らはまさに革命家であり、超絶のオリジネイターです。この二人がいなかったらビートルズが出てこなかったことだけは間違いない。
上に書いたような特徴は、この後では当たり前のスタイルですが、すべて彼らが始めたことです。たとえばギターの弾き方にしても、独特でポップなフレーズをたくさん生み出すことで、リズムを刻むための道具だったギターの可能性を大幅に拡げたし、彼らのトレードマークであるハーモニー(クローズ・ハーモニーというジャンルにもなった)は、マージービートは勿論、フォークにも多くのものをもたらした。
聞けば聞くほど深いところまで沁みる名曲ばかり。オリジネイターというだけでなく、今でも充分に聞くに堪えるクオリティ。
馴染み安いっていうのだって、パット・ブーンのそれとはまったく違う。別に不良じゃなくたってロックンロールするのさ、とこの二人やバディ・ホリーは言っている。
そして、これも肝心なんですが、売れ方も凄かった。上の三曲は全部チャート1位です。いかに、彼らのサウンドが柔らかな衝撃になって浸透したかが分かる。ちなみに、上にも書いた同年発売のジェリー・リーのシングル2曲は、チャート1位になってません。


033 Buddy Holly & The Crickets / "That'll Be The Day" (1957)

034 Buddy Holly & The Crickets / "Peggy Sue" (1957)


そして、この人も可愛い革命家。
見た目はキザでもなくクールでもなくおしゃれなわけでもない。プレスリーやリトル・リチャード、ジェリー・リーのように存在が反逆なのでもない。シャウトもブギウギもない。
でも、この人の作る歌は本当にカラフル。ピアノはなし、ツイン・ギターにベースとドラム、いまも変わらないアンサンブルを作ったのはこの人が最初です。そして、たったそれだけの楽器でこれだけいろんな多様な曲を自然にさりげなくやっちゃうという魔法のような世界。ベスト盤を聞いてると、万華鏡みたいにくるくる映像が変わる。
歌も、シャックリ唄法なんて言葉までできたくらいにオリジナルで、それで凄く温かい。
彼の真似してる人はそれこそたくさん。エルヴィス・コステロやブラーのグレアム・コクソンは見た目そのまんまだし、ウィーザーに至っては見た目はもちろん「バディ・ホリー」なんてシングルまである(というか彼らが売れたきっかけの曲)。
59年の歴史的な飛行機事故が、22歳の彼と18歳のリッチー・ヴァレンスの命を奪ってしまうのですが、でも、彼らのソウルは永遠。メロディも歌声も消えたりしない。空の上からいつまでも僕らを見守ってくれてる。彼こそ切なさを抱えたキッズ永遠の守り神。


035 Dale Hawkins / "Suzie Q" (1957)


この人は典型的なロカビリーロッカーみたいに言われますが(+ワンヒットシンガー)、この曲についてはそうでもない。
ロックンローラーとして有名な割にデイルのヒット曲はこれだけ(27位)。でも歴史に残るのが当然な一世一代の超名曲。
15年後にクリーデンス・クリアウォーター・リヴァイバルのカバーでリバイバル・ヒットするこの曲も、この独特のブルーズのリズム感は原曲の時から健在。僕はタイトなオリジナルのほうが好きです。デイルのカントリー調のボーカルもいいですし、何よりこのジェイムズ・バートン(当時17歳)のギターの凄さがリアルに来る。
バートンはなぜかリック・ネルソンに半強制的にスカウトされて、彼のロッカーとしての資質をバックアップしたりしますが、確かに曲の色を一瞬にして塗り替えるくらいに存在感ある。スーパーギタリスト第一号といったところか。