向こう側

julien2005-05-11

「扉の向こうは?」
中に入るのが恐いなんて言ってたのは遠い昔。でも、まだ扉の前にいる気もする。
けれど、もう扉の向こう側にいるのか、それともまだ入ってさえいないのか、どうにも分からない。ただ、扉は半開きになって、目の前にあるだけ。風景はまるで違うのに、別の場所に来たようには感じない。
よく余裕がない、と言われる。言われる理由は分かるけれど、実際には余裕がないわけじゃない。そんな風には感じないし、調子も悪くない。そういう意味では、単に自分が違ってきているだけなのかもしれない。確かに、どうも人に対して厳しすぎるとは思う。やはり、ここはもう扉の向こう側なのだろうか。
予備校の休憩中、重い扉を開けて非常階段に出る。そして煙草を吸いながら空を見ていると、いろいろ思うことは多い。重い空を抱えているような気分になる。でも、私の思うことは変わらない。より強く思うからこそ、ただ気持ちを抱えているだけなのが辛い。感じること、考えることを、私は形にしたい。私は空から時々聞こえてくる悲鳴や泣声を聞きたくない。目をつぶると見える、裏側を見たくない。そして、聞きたくない、見たくないで逃げ出しそうになる自分や、関係を断ち切ってしまいそうになる自分は要らない。
空気に煙は溶け込み、灰と吸殻を捨てて、また重い扉を開けて戻る。そんな繰り返しのなかでも、みんなの声はちゃんと聞こえてる。笑い声も、ため息も全部まとめて、私は胸にしまいこむ。
そう、だから今はどうしようもない。助けてなんて言わない。私は毎日戦うだけ。だけど、せめて許して。