今日聞いた会話

「私以外、あいつのことは誰も知らないって言うのか?」
「ふん、考えてみるまでもない。お前以外、あいつの顔さえ想像さえつかないぜ。その記憶から消えれば、もう存在しないのと変わらないってことだ。誰も会ったことのない人のことを話すことはできないさ。想像できるとしても、それに何の具体性もない。そうやってひとつひとつ消えていく。現実がどうかじゃない。そんなことは、いつだって絶対的であったためしがない。気になるのなら、誰かに話してみればいい。」
「しかし、それならこの穴はなんなんだ?ここには確かに実体があった。この穴がその証拠じゃないのか?」
「は、それがどうした。だから、そんなものは記憶の残像だと言っている。分からないのか?これはお前のために言ってるんだぜ。」
「しかし。。」
「ならば聞くが、お前は俺がこんなことを言い出す前から、あいつの顔を思い出したりしてたのか?俺はそうじゃないことを知っている。俺はお前自身。お前は俺が自分に正直である以上に、誠実ではいられないだろう。」
「では、一つだけ聞かせてくれ。俺は、お前以外にこのことを話せないのだろうか。例えば今のこの感情を、こんな風にフィクションのように変形させても意味がないのだろうか。どれだけあがいたところで、消えたりしないものなのだろうか?」
「ふん、俺に聞いたところで、お前はすでに答えを得ているんだろう。そうやって、自分を感傷的に見せたりしてなんのつもりだ?考えるまでもない。消せ。それで終わりだ。続きは、お前が忘れた頃に始まっている。気付くのが遅いんだ。」
「俺はお前が言っていることをどこまで理解できているのか分からない。しかし、たった一つだけ分かることは、消そうと思っても消えたりしないことだ。ただ、もう前のようには俺は感じたりできない。角度が変われば、もうなんのこともない。俺がお前に誠実でいるってことは、つまりはこういうことなんだろう。もう、分かった。とりあえずお前も消えてくれ。続きは、また今度。」