Keren Ann / Nolita (2005)

julien2005-04-01


フランスのシンガーソングライターの新作(通算4枚目)。
この人のことは本当に好きなので以前にも書いていますが、前作は全編英語詞、かなりジャジー(レーベルはブルー・ノート)でノラ・ジョーンズを意識したような作品でして、メロディも歌も(スザンヌ・ヴェガにだって負けない)素晴らしいのでポップで聴きやすい作品でしたが、大半の曲が英語で歌いなおしただけのものでしたので、実質的にはバンジャマンと別れた後の最初の作品が今作なのでしょう。
彼女は、この間にLady & Birdというユニットでアルバムを一枚出していますが(これも以前書きました)、これがかなり内向的。フォークトロニカといえば響きが良いですが、実際はブルーを通り越して限りなくアンニュイ、聞いていると恐くなるくらいに死と隣り合わせのようなもので、私はこれを「死を夢見る少女のためのBGM」と表現した記憶があります。そのため正直なことを言えば、今作を聴くのは不安でした。
ジャケットは、彼女のセンスを感じさせるようなモノクロでセピアで、可愛いけれどどこか儚くも危険でいじわるな雰囲気。なぜネコが描かれた壁を背にして、彼女が二人いるのか、とても意味深です。つまりは、もう一人の自分と対話するようにして作られたということなのでしょうか。自分自身と「二人」して歩いていく。。聞く前から涙が出そうです。タイトルの意味はNo Lolita?ブランドの名前のわけはないでしょうね。
そして1曲目。これは、もう、完全にLady & Birdの延長です。。曲が進めば、あれほどの狂気を感じるわけでもないのですが、とにかく限りなく内向的。ここまで来ると、今時珍しいほどにスタンダードなシンガーソングライターですね。バンジャマンと作り上げた美しく透き通った世界は、ここでは完全に冬景色になっています。
そしてはっきり気がついたのは、彼女がここで意識して作っているのは、ブリティッシュ・フォークだということ。あの霧の立ち込める深い森のなかを進んでいくような世界がここにはある。フェアポート・コンヴェンションやペンタングルを好きな人は,迷いなく買われてよろしいと思います。しかし、いま、この音に与えられる場所はあるのだろうか。多くの人に愛される作品とはとても呼べない。
総評を言えば、これは紛れもない傑作。アンリ・サルヴァドールに見出され、20年に一人の天才だと言われる評価を裏付けることはあっても裏切ることはない。けれど、恋をするのが恐くなる作品でもあります。。誰かを愛することは、喪失によってここまで深い音を生み出すのかと衝撃を受けます。
個人的な意見を言えば、彼女には以前の場所へと戻ってきて欲しいと思いますが、そんな簡単に別の誰かを愛せないのかもしれない。そして、そんな気持ちは痛いくらいによく分かるから、これは私にとっても大切な作品になる気がする。

追記
なんだか知らない間に彼女の国内盤が過去のも含めて発売されてました。
コラリー・クレマンが一部(フレンチ・ポップ好き)で売れて驚くことに国内盤まで出て、さらにライブまでやってしまい(当然行きましたが)、最近出た2nd(買ったので近いうちにレヴューします)もやっぱり国内盤出て、ならケレンも出せよ状態でしたので素直に嬉しいです。これでライブやってくれたら最高なのに。そういえば、シルヴィ・バルタンリバイバルで売れてるそうです(来日ライブまでやったらしい)。でも、個人的にはケレンの声を生で聞きたい。
国内盤に話を戻せば、英語なら簡単なのでともかく、フランス語をいちいち訳してはいられない。そういう意味で2ndや今作の訳詞は欲しいけれど、今時CCCDじゃお話にならないです。