悪役

NHKで大化の改新のドラマ化を放映してたので思わず見てしまいましたよ。
私は、山岸凉子の『日出処の天子』が大好きで、過去にも飛鳥を一人旅したくらいにこの時代が好きです。
ドラマでは、蘇我入鹿役の渡部篤郎が特段に素晴らしかった。見てて数年前の大河ドラマ時宗」を思い出しました。それにしても、昨日の光秀と今日の入鹿と、世間的に言えば「悪役」、直で言えば殺される役を二晩連続で演じたわけでして、少し焦りましたが、彼の、切なさを漂わせながらも、はっきりと見せてくるロマンチストには男から見ても惚れるものがあります。
私は、歴史においては「悪役」にこそ魅力を感じますし、それは単なる「悪」の魅力ではなく、「悪」であることの潔さや、それを引き受けるものにとても惹かれるためです。
幕末に関しては、司馬遼太郎を始めとしてかなり多くの書籍を読みましたが、ファンタジーや脳内の人の世界にあるような単なる悪と善との対立なんかじゃなく、必死に何かにすがることで生きていることで必然的に起きてしまうような対立が好きなのです。だから龍馬のようなヒーローは勿論好きなんですが、それ以上に明治初期の暗闇での大久保利通や西郷、板垣退助江藤新平らの、あまりに人間的な、バカバカしいほどにぐちゃぐちゃになった人間関係のほうが好きなのです。法の価値に気付いた結果、バカみたいに必死になって自滅した江藤も大好き。西郷は感情がちいとも見えない偽善者なので大嫌いですが、自分なりに国家を背負って、仲間やライバルを殺しまくってまでも行動し続けた大久保は大好きですね。最後にツケを払って殺されましたし。ちなみに、彼がメッタ刺しにされたあたりで、私は子供の頃にそうとも知らずに遊んでいました。こういうどうでもいいようなブラックジョークじみた因果も好きなんです。
たいていの歴史的解釈は、論理的かつ明晰で分かりやすい方へと傾いていきますが、生きてれば、人間関係ってそんなに単純なものじゃないって感じますよね。

あ、これは日本ではありませんが、フランス革命期の人間関係などは、ドラマ化したらこれ以上はないだろうというほど面白いです。別にオスカルが出てこなくても充分にドラマチックで、ナポレオンが登場する前の、例えばロベス・ピエールやサン・ジュスト、マラー、ラファイエットなどはどれもかなり癖がある魅力的な人ばかりですし、ナポレオン以降でさえ、フーシェタレイランといった強烈な「悪役」が大活躍ですよ。
そういえば、ナポレオン失脚後の笑ってしまうくらいに反動的なウィーン体制も、それを引っ張ったメッテルニヒが超反動的になった理由は、若かりし彼がパリに留学中だった時に革命が起きて、その際に目撃してしまった暴徒によるパン屋略奪光景がトラウマになった結果のものだっていうのだから、やはり歴史は単なる善悪や結果論の支配する単純なものではないです。

話を戻せば、蘇我入鹿のような歴史的な「悪役」だからこそ、ああいう姿で描いてくれたのが面白かった。そういえば、山岸凉子が描いた聖徳太子はかなりダークなキャラでしたが、彼の切な過ぎる感情はあまりに美しく、今でも惹かれてしかたがない。あまりに多くのものを手にしてしまうことは、同じくらいに無数のものを背負っていくことなのだと思う。
ドラマに関しては、中臣鎌足役をやった岡田准一も良かったです。自ら暗殺計画を立てながらも、瀕死の入鹿を抱いて泣き叫ぶ彼は美しかった。歴史家には見えない感情が溢れていて、涙が出そうでした。

ところで岡田君は、普段から本ばかり読んでいるそうで、自身を評して曰く「前向きな引き篭もり」だそうですけど、正直、負けるんかと思いました。こういう人を見ていると嬉しくなります。