INU

音が聞こえるのに、なぜかとても静かだ。
あれほど聞こえてきた声はどこへ行ったのだろう。
表層とその下が分かれると、表層のざわめきはもう奥へと伝わらなくなる。

切り離した記憶はないけれど、こうして少しづつ何もかもが遠くなるのかな。

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どうも最近、人に厳しすぎる気がするけれど、友人は、それでいいんじゃないのと言う。
変な諦観や達観は不気味だと。
そして、私自身に関しては、安定しすぎていて昔のような不安定さも良かったと言われた。
そう見えるらしいが、確かに実感している部分もある。でも、飢えに関しては昔の比じゃない。
ここまで私は満たされていなかったのかと驚くほどだ。
あらゆることを吸収したくて溜まらない。そして、何もかもが、虚しささえもが飢えの対象。

そういえば、ルナはなんでも食べる。最近は果物なんかがお気に入りのようだ。
私も似てる。まるで野良犬。

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友達(♂)に一人、どうしょもないくらい不安定なのに可愛くてしょうがないのがいる。
昔、ヤツに何気なく言ったものに、私に決定的な衝撃を与えた一言がある。
相対価値に慣れきった私にヤツは、俺には絶対的なものがあると言った。彼はクリスチャンなので、それは根源的な一者、神なのだろうけど、相対によって放棄した絶対価値が、私になかに新たに入ってきた気がした。
勿論、私がクリスチャンに目覚めたとかそういう話じゃない。視点の問題なのだ。

ベンヤミンが惹かれたメシア的なものかもしれない。
どこかに居場所を見つけて座るのは構わない。けれど、眺めているだけの視線はなんて寂しげなんだろう。高みはそこじゃない。


この飢えばかりは、自分でもどうしようもないけれど、出来ることは飼いならすことじゃない。
私は理性と感情の婚姻を祝福してやったのだ。
だから、知らない場所にいる私はただ二人を見守ればいい。