Art Bears / Hopes And Fears (1978)


ヘンリーカウにスラップハッピーが事実上吸収され、その後まもなく解散した理由は、カウのフレッド・フリスとクリス・カトラーが、スラップハッピーのダグマーの声にやられたからではとか下世話に考えてみたりしてしまう。バンド内部でのバランスの崩壊ですか。彼らみたいな音は、絶妙なバランス感覚で音が維持されているから、人間関係のようなものがすぐに反映されてしまうように感じます。
ダグマーの声のせいか、後期のカウとそれほど印象は変わりません。あえて言えば、メンバーが3人になったから音がよりシンプルになった結果、ダグマーの声の魅力がより増して聞こえます。
カウはアヴァン・ポップというより、前衛的なプログレと言われますが、ベアーズはさらに実験性と前衛性が強められた感じで、一部の曲を除けばポップじゃないです。「希望と畏れ」という内面性が、表現主義的(ダグマー)でありながら同時に緻密に構築された音世界(フリス&カトラー)は、ほとんどアート。このバランス感覚は凄い。音の要素はギター、バイオリン、ドラム、ボーカルだけなのに。
フリス、ダグマーが天才なのは当然としても、カトラーの作り出すリズムも誰も真似できないレベルに至っているように思う。
忘れてならないのは、このアルバムは1978年に発売されていて、フリスやカトラーといった敏感な感性を持った人がパンクに反応しなかったわけがないのですが、すでにポスト・パンク的なことを見据えていることですか。ほとんどニューウェイブと言ってもいいような感じです。
はっきり言って万人にお勧めできる音じゃありませんが、僕は時々こういう音に浸りたくなるんです。まあ、ダグマーのボーカルの凄さは一度はお聞きになってもいいかもしれません。