「新ゴーマニズム宣言」訴訟:小林よしのりさん逆転勝訴−−最高裁判決

http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/jiken/news/20040715dde041040057000c.html
少し前の判決ですが、個人的にはかなり微妙なものですね。
著作権侵害」などの法律的見解が違法の事実を指摘するものかどうかなんて、単純な文面上の問題じゃないと思うんですよね。小林の影響力を考えれば、彼が「法律的見解」を表明した場合に、それが名誉毀損になる可能性は非常に大きいと思う。

「小林さんの漫画は意見や論評の域を逸脱した人身攻撃とまでは言えず、上杉さんも小林さんを著作で厳しく非難していた」

とありますが、上杉氏が行った表現が「引用」であり、従来通りの言論による批判に対し、小林の行為は「泥棒姿」に描くなど、、あず明らかに真実ではないし、またパロディやカリカチュアの粋を超えたものであり、あきらかに相手の名誉を傷つけるものであるとしか思えません。
少なくとも「どっちもどっち」的な考えは危険ではないでしょうか。
判決文でも、小林の著作権侵害の主張は認められていないので、「泥棒」呼ばわりされるいわれは無いわけです。
個人的には、小林のような名誉毀損すれすれな表現をあちこちでやってる人間に、このようなお墨付きを与えてしまったことが怖いのです。

法的な見解の正当性それ自体は,証明の対象とはなり得ないものであり,法的な見解の表明が証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項ということができないことは明らかであるから,法的な見解の表明は,事実を摘示するものではなく,意見ないし論評の表明の範ちゅうに属するものというべきである。また,前述のとおり,事実を摘示しての名誉毀損と意見ないし論評による名誉毀損とで不法行為責任の成否に関する要件を異にし,意見ないし論評については,その内容の正当性や合理性を特に問うことなく,人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り,名誉毀損不法行為が成立しないものとされているのは,意見ないし論評を表明する自由が民主主義社会に不可欠な表現の自由の根幹を構成するものであることを考慮し,これを手厚く保障する趣旨によるものである。そして,裁判所が判決等により判断を示すことができる事項であるかどうかは,上記の判別に関係しないから,裁判所が具体的な紛争の解決のために当該法的な見解の正当性について公権的判断を示すことがあるからといって,そのことを理由に,法的な見解の表明が事実の摘示ないしそれに類するものに当たると解することはできない。

この意味分かりますか?つまり、「ドロボー」って言ったところで、別に相手が本当のドロボーになって捕まるわけじゃないから、こんなのは単なる意見の表明にすぎない、ってこういう意味です。
これは明らかに言いすぎだと思うのですが。。。趣旨はその通りですが、これでは「ドロボー」とか「詐欺師」とか、小林が今後言いまくることが予想されます。そして、それに対する名誉毀損の訴えは認められないってことになります。
さらに小林の表現に関しては

本件各表現は,被上告人が本件採録をしたこと,すなわち,被上告人が上告人小林に無断でゴーマニズム宣言シリーズのカットを被上告人著作に採録したという事実を前提として,被上告人がした本件採録著作権侵害であり,違法であるとの法的な見解を表明するものであり,上記説示したところによれば,上記法的な見解の表明が意見ないし論評の表明に当たることは明らかである。

本件の場合はともかく、小林は普段から平気で問題発言してますけどね。。では、川田龍平従軍慰安婦に対する発言(表現)は、どんな法的見解を表明するものだったんでしょうか。

そして,前記の事実関係によれば,本件各表現が,公共の利害に関する事実に係るものであり,その目的が専ら公益を図ることにあって,しかも,本件各表現の前提となる上記の事実は真実であるというべきである。また,本件各表現が被上告人に対する人身攻撃に及ぶものとまではいえないこと,本件漫画においては,被上告人の主張を正確に引用した上で,本件採録の違法性の有無が裁判所において判断されるべき問題である旨を記載していること,他方,被上告人は,上告人小林を被上告人著作中で厳しく批判しており,その中には,上告人小林をひぼうし,やゆするような表現が多数見られることなどの諸点に照らすと,上告人小林がした本件各表現は,被上告人著作中の被上告人の意見に対する反論等として,意見ないし論評の域を逸脱したものということはできない。

要するに、小林と喧嘩する時は「やりすぎるな」ってことですね。さすがに喧嘩慣れしてる。小林を舐めたら確実に負けますね。それだけは認めます。
しかし、小林の表現が「公共の利害に係るもの」なんて、初めて耳にしました。こういう論理構成になっては確かにそうなってしまうのですが。

それにしても、この判決は怪しい。政治思想的背景があるように思えてなりません。最高裁はけっして不合理な判決ばかりを下しているわけではないとは言え、上記の「法的な見解の表明は,事実を摘示するものではなく,意見ないし論評の表明の範ちゅうに属するもの」という判断は、まともに受け入れる気にはなれません。著作権侵害は無かったといいながら、ドロボー姿に描くことが、権利主張のための正等行為だというのは、かなり無理があります。

まあ、小林支持者は怖いので批判はこれくらいにしておきます。議論ならいくらでもするけどね。ただし基礎的な知識を共有してる人に限定。クラウゼヴィッツ多木浩二も知らないような人と「戦争論」について語る気は無いので。

判決全文→http://www.jca.apc.org/datu-gomanism/saikousaihanketu.html