Ground Zero / 革命京劇 Version 1.28 (1995)

julien2004-05-13


これもLocus Solusで買ったものです。
Ground Zeroは、そのジャンルでは世界的にも非常に有名な、逆に言えばポップサイドでは超無名なサンプリングDJの大友良英さんが率いていたグループ。彼はギターのような楽器の演奏も出来るのですが、ほとんどはターンテーブルを使ってサンプリングを行い、それとバンド演奏を会わせた独自なスタイルで革命的な活動をしている人です。ちなみに、今回の著作権法改正に対する反対運動にも、ちゃんと賛同してらっしゃいます。
大友さんは96年の時点で、すでに著作権についての一定の考えを持っていらして、短い文章ですがこちらを読まれると分かります。
http://www.japanimprov.com/yotomo/yotomoj/essays/consume-j.html

サンプリング、と言っても、彼の手法はかなりアヴァンギャルド。まずヘッドフォンモニターを使わない。そしてミキサーのフェーダーにすべての音源を立ち上げておいて、いわば速度と偶然性に任せるような形で演奏するわけです。美しい音楽や予定調和を愛する人には、すぐには受け入れがたいものかもしれませんが、私は彼の音楽だけではなく、そうした理念や精神のほうにも惹かれます。
そもそもはハイナー・ゲッペルスアルフレート・ハルト、この二人は現代音楽といったほうがいいような人なんですが、彼らの『Peking Oper』をグラウンド・ゼロがサンプリングして作った作品がこの『革命京劇』です。
サンプリングなどには詳しくないので詳細な分析などは出来ませんが、政治的な声が無数にサンプリングされ、そこに凄まじい演奏が重なって、恐ろしくカオティックな世界が展開します。もう、これははっきり言ってロックです。
それにしても、凄いグループ名だと思います。いまでは、グループ名というよりは、NYのある場所を示す固有名詞へと変わってしまいましたが、私は「爆心地」という日本語と「グラウンド・ゼロ」という言葉を同じものだとは認識していなかったので、あの事件のあとに、その場所にそういう名前が付けられた時には最初にこのグループのことを思い出しました。だから、あの問題は、すぐに感覚的にもアメリカのものとは思わなかった。むしろ、このサンプリングの混沌として、でも、逆説的にではなく美しい多様な要素の混在したイメージとして捉えてしまった。勿論、それは混沌を美と見るというような単純な退廃主義ではなくて、悲劇や悲しみまでをも包括して進行=信仰=新興する世界の状況に対する観照というような意味なんですが。
そういう意味でも、彼らの活動は「時代」を先取りしていたし、また、この問題に関する可能性としても見ることができると思うのです。
サンプリングを軸にする大友さんが今度の法案に反対するのは、この意味でも当然のことであるし、私は様々な音や声が同時に存在しうるような可能性を秘めた世界が、このようなつまらない法案やWinnyに対する制約などで潰されることには、単なる憤りを超えた怒りを感じるのです。
ASIN:B000008R6G