惑星間の距離

彼女は画集のあるページに精神を集中させる。
そして聖者たちが丘の周囲を回りながら、ゆっくりと登っていくそのなかに密かに紛れ込む。
考える限り彼らの歩みは永遠に停止したままのようだが、それはその動きが目には見えないからだ。
この世界だけでなく、心臓は常に柔らかく暖かい。鼓動は止まることなくリズムを刻む。けれど、ペースメーカーは誤作動を始める。すべての機械は永遠を知りはしない。けれど、逆に運動は留まることをしらない。今もすべては回り続けている。

幻覚と妄想の狭間を意識はどこへ向かうのか。運動に合わせれば、そこに限界はない。彼女の限界は私が握っているだけだ。
今は血液中を流れる異物が、彼女を連れ去ろうとしている。けれど、手はそこにある。伸ばせば届くところに。

私には歩みが見えなかった。私はただ静止を眺めていた。つまり、生はいつも死に似ている。
どんなに気をつけていても、闇は見えない場所に転がっていた。
手を掴もうとすると、その闇が私を次元のかなたへと引きずり込もうとする。見えない物質が重量を持ったまま、宇宙の隅々まで満ちている。誰も法則に逆らうことはできない。見えないものに敬意を払うことはできても、警戒することはできないものだ。

一連の思考を停止させると、そこには一人彼女がいて、私はそれを眺めている。地図に描かれない場所なんてどこにあるというんだろう。深い穴に落っこちたところで、ここではかすり傷一つ負ったりはしないけれど、惑星間の距離を縮めることはできない。私は視覚の運動をやめて、観想のなかへと沈み込む。
そして、中心に位置する太陽は多層な光のなかに想いを込める。光のなかに溶け込んでしまうと、私にはもう彼女は見えない。すべては意識を超えて進行する。

感じることは、私の意識をそこから逃れさせようとする。そして距離は、そうした飛躍のなかで急速に縮まるように見える。
今、この場所が静止したように見えるのは、私の意志だけが孤独に運動するからだ。

画集が閉じられると、法則は夢から覚めて支配を開始する。