Patti Smith / Horses (1975)


Themの名曲「Gloria」の、今聞いても新鮮なカバーで幕が開く。
ジーザスが死んだのは誰かのばち、でも、わたしじゃない」
これを聞けば、荒廃した世界に嫌気がさしてランボーに酔っていた高校生が初めてこれを聞いた瞬間のことを、私が洋楽に目覚めた瞬間の記憶が今でも蘇る。ポエティックリーディングを生々しいリズムに乗せてパティがつぶやく、叫ぶ、歌う。「詩」が瞬間的に「歌」に変わる。ここにあるのはただ、彼女の声だけだ。でも、それが必然的に歌となる。あまりに必然的、あまりに絶対的に歌になる。
当時は意味も分からず、ただあまりの格好良さにやられただけだったけど、今でも、ここまで声そのもののリアリティを感じる女性は他にしらない。男だって、私にはThe DoorsのJim Morissonくらい。
音をかたち作るのは、Richard Sohlのピアノ、Lenny Kayeのギター、Ivan KralのベースにJay Dee Daughertyのドラム。そして、一人の女性のパラノイアックな歌声。そして、彼女の詩。

ジャケットは、かつての恋人Robert Mapplethorpe撮影。エイズで亡くなった天才写真家と、初めてパンクを歌ったこの天才詩人が、伝説のチェルシーホテルで何を話していたか私は知らない。でも、自分が知ってるジャケットで、これほど美しいものも私は知らない。
リマスターされた現行盤には、ボーナストラックとしてThe Whoのアンセム「My Generation」のカバーが入っていて、この作品のプロデューサーでもある元The Velvet UndergroundのJohn Kaleのベースを聞ける。複数の歴史の流れが、ここでも一瞬のなかに交叉する。
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