Number 37.4

ローレライは製造番号の入ったロボットで、決められた思考回路で動いているだけだった。
顔も歌声もすべては作り物だった。


入り江を抜けた後、船は何日も光の当たる場所を漂流した。
見なれた島を見つけたが、辿り着くと同じ景色がまったく違って見える。
そこは、世界の付きぬけた反対側の世界で、鏡の裏でも、ブラウン管の奥でもなかった。

私はそこで寝ていればよかった。飢え死にする心配なんて少しもない。孤独に苦しむこともない。
けれど、私には、そこでは全てが見えることが悲しかった。
夢が隠されていても、それは沁みるような痛みを伴った。
切ないくらいに、どこにでも夢は見つけられた。
文字の合間から、行間から、あらゆるものが見えてくる。


だんだん私はあの入り江に忘れ物をしたような気がしてきた。


ここは素晴らしい場所には違いない。
けれど、何かが足りない。
ひどく野蛮なものを、私は思考の外側に捨ててしまったように思われた。


気付けば、私はあの入り江にふたたび戻っていた。
ユリシーズに悲嘆して自殺した魔女達が眠るそばに、あのロボットは倒れている。

そこで私は、見知らぬ言葉を聞いたような気がした。
それもまた象徴なのかもしれない。
私は自分のイマージュから、まだ覚めてないのかもしれない。
けれど、それが何か分からないということだけで、今の私には充分だ。

そこは付きぬけた世界の裏側、あの世界の隣。