Dutilleux / Tout un Lointain...pour Violoncelle et Orchestre

Jean-Guihen Queyras (vc), Hans Graf / National Bordeaux Aquitaine O (2002)


現役最長老作曲家デュティーユーのチェロ協奏曲。《遥かなる遠い国へ》の副題から、武満徹のヴァイオリン協奏曲(遠い呼び声のかなたへ)を連想しますが、このような抽象的な感じにも曖昧さは感じない。あくまで捉えがたい対象を描こうとするためのカンディンスキーの描線のように明確きわまりない抽象さ。
この人は、反”新古典主義”なので、プーランクオネゲルと違って、要は分かりにくい現代曲。とはいえ、不協和音がどれだけあろうと、流麗なメロディがなくても、音楽以外の何物でもないし、世代的には重なるメシアンと同様に音の響きにわくわくするし、音を聞いているとかすかに湧きあがってくる感覚に身を任せるだけで楽しい。そして、それ以上に夜の空気が美しい。
感傷に酔うこともなく、激情に高揚することもなく、淡々とこぼれそうなものを弦がすくいあげていくような音色。奏でるというよりも、つぶやくようなもの。わかりやすいものに収斂されてしまいそうな感覚を、つなぎとめてくれるようなかけがえのない音。名曲。