描線

julien2005-07-09

一日一日が過ぎ去るから、願わくばその全てを、叶えられずともその一部を、感じられる形で自分に刻み込みたい。
覚えたこともいつしか身体の一部になるように、そんなふうに沁み込んでいくもの。大切だった時間のなかで私が感じたことをいまでも覚えているように、いまのこの瞬間のことを、消えてしまう煙のようなものを。

失われてしまうものを求めて、時間のなか、記憶の中を彷徨うこともあるはず。切れて、そして続く黒鉛筆の描線。
マドレーヌが記憶を甦らせてくれるように、いつか見出される時がいまここにも。
もう私のなかにはない流れたしまった赤の記憶、水に流れた白の記憶、光に浮かぶ黒の記憶、風になびく緑の記憶、キャンバスに残らないパレット上の色々の記憶。
笑う時にはひっそり、悲しい時には積極的に、遠い記憶と近い記憶の遠近法が眩暈に近いものを感じさせて、少しの疲労と混沌をくれる。
絵筆を握る手が震えるのは、真っ白な平面がいちばん恐いから。記憶のかすれたラインの描線が安心をくれる。