"失われた感覚を求めて" Vol.1 〜Rock'n RollとR&B〜

julien2004-09-20

ロックはこうで、R&Bはこう、みたいなつまらないカテゴリーが相も変わらず幅を利かせているので、その成立を少しまとめてみます。まあ、自分の知ってる範囲なので間違ってる部分もあるかと思いますが。
ロックンロールの最初のヒット曲と言われているのが、55年のBill Haley & His Cometsの"Rock Around the Clock"。で、プレスリーの"Heartbreak Hotel"が56年。で、肝心なのはロックンロールって言葉がいつから使われたかと言えば、実はこれが50年代の前半。アラン・フリードという人が、新しいR&Bに対して使い始めたもので、笑っちゃうことに白人がヒットを飛ばす前からあったんですね。
さらに言えば、ビル・ヘイリーやプレスリーと時を同じくして登場したパイオニアたちの顔触れを見ると、チャック・ベリー、リトル・リチャード、ボ・ディドリー、ファッツ・ドミノレイ・チャールズジェリー・リー・ルイスカール・パーキンスエディ・コクランバディ・ホリーと見ても、半分はアフリカン・アメリカン(以下AA)。更に、「ロックンロ−ル=ギター」の定式を作ったのは、まさにチャック・ベリーなんだから、ロック=白人、R&B=AAなんていう見方が、ほとんど偏見だというのは明白。知らないと分からないんですが、ビートルズストーンズらの曲には、チャックやリトル・リチャードのカバーがやたらある。モータウンのカバーもたくさんある。ミュージシャン(当時の)に偏見がないのに、リスナー(現代の)が持っててどうするの?といった感じ。

よく、ロックンロールはR&Bとカントリーを合わせたものだ、とか言われてますが、言葉通りにイメージするのは大変です。
オールディーズのコンピレーションを聴いてると、「ヴォーカル」というカテゴリーに含まれるものが多数あります。これは、カントリーにしろ、ジャズにしろ、要するに当時の「ポップ」シンガーを指す言葉だったりするんですね。
例えば、カーペンターズのカバーで有名な"The End of the World"、このオリジナルはスキーター・デイヴィスって人なんですが、彼女はナッシュビルサウンドを代表するバリバリのカントリーシンガー。
他に、50年代後半〜60年代前半のポップスを象徴するブリル・ビルディング・ポップの作曲家たち(ニール・セダカキャロル・キング等)は、R&Bだろうがガールグループだろうがロックだろうが関係無しに曲を提供してるわけで、いつから、こんな複雑にカテゴリーされるようになったんだ、と気になるわけです。
そもそもR&Bというのは、40年代にジャズが、ビ・バップからモダン・ジャズ経由の今のジャズに繋がるような流れと、スウィングやエンタテイメントを出発点にするような流れに分かれ、後者がジャンプ・ブルーズやアーバン/カントリーブルーズ、ドゥ・ワップになったものを指して広くR&Bと呼んだことから始まるんです。一言で言えば、専門化したジャズ以外全部、ってことです。

こう考えれば、ロックンロールは流行してる曲から自然に生まれてきたわけで、カウンターカルチャー云々というよりは、思い通りにならない若さ特有の戸惑いとかブルーな感情が、自然に音になったわけで、その音も当然のように身の回りにあった音、つまりR&Bとカントリーだった、と考えたほうがよほどしっくり来ます。

今は、身の回りにある音が多すぎて、単純には行かないんでしょうね。でも、公民権運動やらでAAと白人が対立していた頃のほうが、音楽的には共存していたという現象は興味深いのです。最近のクロス・オーヴァーな感覚を見ていれば、また良い方向に向かっているのかな、とは思えますが、ひどいのは現在のポップ・ミュージックですね。ここでは、定型化したサウンドの分離並立状態。
ポップミュージックの本質を考えれば、やはりリスナーの耳が分化・鈍化してるとしか思えません。パンク・リスナーのためのパンク、ヘヴィ・ロックリスナーのためのヘヴィ・ロック、ラップリスナーのためのラップ、R&BリスナーのためのR&B。。。

僕が求めているのは、オールディーズにある感覚なんです。60年代後半から始まる自己主張した若者の天下でもなく、それに対抗して保守化した各ジャンルでもなく。一人のリスナーとしては、こういう感覚で音楽に接しているほうが、よほど幸せだとも思うのです。というか、幸せ。