柏木

本当は上に書いたようなことは考えたくないよ。今日はもっと特別な日だったから。


1年以上逢ってなかったのに、少しも変わらない。
銀座の街もちょうど1年ぶりだけど、街は少しづつ変わっていた。
そして鏡のように映る僕の姿はどうなんだろう。


でも、今日の僕は過去に対して何ひとつ後悔するものが無かった。
変わったもの、変わらないもの。
感情のなかにも混じって、僕にもよく分からない。悔いも悲しみも何も無いけれど。


あの人に言ったように、僕は柏木のような男だから、想いと共に消えていくほうがずっといいのかもしれない。
けして源氏のようには振舞えない。

誰を想うにも、僕は重ねて見てしまう。忘れかけた面影が、またはっきりと全ての風景に重なってしまう。
でも、分かったことは、僕は本当にあの人が好きだったこと。
そして、それ以上に、この人と僕はけして結ばれることがないこと。けれど、それさえ、ずっと前から知っていた気がする。
少しづつ面影が特別なものじゃなくなる。

不思議なのは、これらを受け入れることに苦痛がないこと。
あの人に逢わなければ良かったと考えながら、そんなことを少しも思わない自分がいる。



僕は柏木じゃない。
銀座の夕暮れは綺麗でした。こんなに気持ちがいい夏の日を感じたのは、今年で初めてでしょうか。
彼は恋に死んで、僕は無様に死なない。でも、けして死ねないんじゃない。