Henry Cow / In Praise of Learning (1975)


ヘンリー・カウプログレとして扱ってもいいんだと思いますが、アヴァン・ポップといったほうがしっくりくるのかな。
数年前に佐々木敦が紹介してるのを読んで買いました。ヘンリー・カウのメンバーでもあるChris CutlerがつくったRecomended Records(略称ReR)、これはアヴァン・ポップの総本山的な存在なんですが、これの日本支部でもあるLocus Solusで、或る時期CDをよく買ってたんです。このReRには、ジャーマン・プログレの代表Faustなんかもあって、本当に刺激的な作品ばかりで驚いたのを覚えています。
ヘンリー・カウの音に関しては、自分はクラシックの現代音楽やフリー・ジャズのインプロヴィゼーション(インプロ)なんかも結構好きなので抵抗なく聞けるんですが、興味ない人には結構違和感あるかもしれません。ただ、わりとポップです。2nd『Unrest』に入っている"Ruins"なんかインプロとポップさが絶妙に重なっていて、超が100個くらい付きそうな名曲です。深く作りこまれた音楽とはこういうものなのか、と、自分にとっても重要な曲でした。

このヘンリー・カウはメンバーの変動が激しいので全体を把握するのは大変なんですが、中心にいるのは、前述のクリス(dr)と、後に彼とArt Bearsを結成する天才ギタリストのFred Frith(g,vio)、Tim Hodgkinson(Org)といったところでしょうか。あと、このアルバムに関してはSlapp Happyのメンバー3人が全員参加していて、それぞれ素晴らしい働きをしています。特に大事なのが、ボーカルのDagmer Krause。彼女なしではこの作品は存在しません。基本的にインプロが中心だったヘンリー・カウが声を手に入れたということです。実は、この後にスラップ・ハッピーヘンリー・カウに吸収されてしまって、クリス、フレッドと共にダグマーはアート・ベアーズを作ることになるのです。

この作品は彼らの3枚目で、実は彼らが契約していたのはあのヴァージン・レコード。しかし、パンクらを中心に展開することが決まってしまって、ヘンリー・カウスラップ・ハッピーも解雇されてしまうのです。この辺りの流れを追うと、そのままアヴァン・ポップの歴史が出来てしまうくらい、常に中心にいたグループなんです。ちなみに、初期Soft MachineRobert Wyattも彼らと深いつながりのある人物です。つまり、カンタベリー系サウンドと密接な関係があるんですが、その辺りは詳しくないので省略。

かなりポップな"War"で幕を開けるこの作品ですが、圧倒的なのが17分間に渡るM2"Living in the Heart of the Beast"。私なんかがどう言葉で表現したらいいのか分からないので、これは聞いてください。インプロを挟んで、ピアノが印象的な名曲"Beatiful as the Moon"。最後は再びインプロのナンバー。坂本理氏はこれを「慎重に準備されたアナーキズム音楽かもしれない」と書いています。

この作品の歌詞には詩で表現された政治的なテーマが散りばめられていて、それが神秘的なイメージさえ帯びています。これはジャケットにも表れているんですが、彼らの作品のジャケはいつも靴下。それが、この作品では「赤」に塗られているんです。つまり、そういうことです。

うーん、イベント名を拝借している以上、彼らの曲をクラブでかけたいとは思うんですが、雰囲気に合わなそうなので断念しています。うーむ。

  • Favorite Tracks

M2: Living in the Heart of the Beast , M4: Beautiful as the Moon - Terrible as Army with Banners
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