昔の話

いま自分が住んでいるのは東京の練馬区という場所ですが、生まれたのは新宿、その後、葛飾を経て、幼稚園から小学校低学年までは、千代田区の麹町という場所で過ごしました。家を出るとすぐ皇居があって、お堀を見ると今でもあの頃を思いだします。この辺です。
住んでいた隼町というのは、お堀を東にして新宿通りの南側、最高裁判所国立劇場を含む一帯で、下町の雰囲気がかすかに残る凄く不思議な場所です。狭いところなので、私の遊んでいた範囲にはお隣の平河町も含みます。そこには平河天神という神社があって、友達の家がその境内にあったこともあり、千代田=首都圏といった一般のイメージとは違って、私にとっては特別な場所でした。あとは、紀尾井町。そこにある有名料亭の息子も友達でしたが、ちっとも特別な感じはしませんでした。要するに、下町なんです。そういうのは、多くの人は知らないことなんだろうな。でも、そのFとは、もう全然会ってない。将来的にもし彼が跡を継ぐなら、首相なんかとも関わる仕事だし、とんでもなく大変なんだろうな、とか勝手に思う。彼も特別な人間なんかじゃないんだよね。

去年、ちょっと行く機会があって、あの辺をふらふらと歩いてみたんです。でも、あまり変わることもなく、日本のど真ん中にこんな場所があるのを改めて不思議に感じました。そして、とても懐かしかった。この辺りは江戸期には武家屋敷が並ぶ地域だったので、坂も多く、大きなレベルでの再開発もされずに不思議な空間が、いまだに残されています。

そこで感じたこともたくさんあるし、その一部は、今でも私のなかで生きているんでしょうね。そういう意味じゃ、私にとっての首都圏というのは、多くの人に比べてやはり特殊なものなのかもしれない。冷たい印象のある東京に、そんな懐かしい感覚を持てることは、私にとって大切な宝物なんです。