ウサギのグラス

あの15枚の紙が苛立ちの原因とか思っている割に、もう半分は終わってしまった。きっと、余裕で終わる。そうやって終わってしまう。
ぼんやり見えるようだけれど、やっぱり本当は何も見えない。そういえば、あの時に隣にいたのは誰だったっけ?
何かが見えるのかといえば、坂の上の空に雲がかかっているくらい。
自転車を漕いで隣の町まで行って、夕暮れに追われるように家に帰っていた頃を思い出した。小学生の頃から毎日電車に乗って、ランドセル背負ったまま池袋を歩いたりしてたけど、何を見ていたのか全然思い出せない。思い出す景色のなかには自分もいる。誰がその光景を見ている?

薄暗い銀座の喫茶店、初夏の上野の静かな午後。
輪郭だけがぼんやりとして、あの人たちの背中のその後ろが見える。あれ、何を見てたんだっけ?

シャガールの絵が並んでて、君は定期を無くしたことに不機嫌で。でも、午後2時に見たあんな小さな虹を思い出したりする。
あの時は何にどきどきして、そしてあの日は駅まで走って、僕のために息を切らしてたのはなんでだったっけ?
不安だらけでメールして、一緒に泣いたり笑ったり、怒ってそのまま消えてしまった。何を見てたっけ?あれ?

同じように感じて泣いて、来年はそんな風にやれますか。光の中を線路がどこまでも伸びる。次の駅は、その次の駅は?
読みかけの本を閉じる前に、ふと思う。目の前に誰も座ってないことに驚いて。
今、欲しいものは何だっけ?


青山で見つけた一対のグラス。重ねて回すとウサギが走る。そして、クローバーが刻まれたコイン、あの行き先は?
あげたものはたくさん。失って、でも、どこかで回転木馬のように回ってる。
まるで子供みたいにその上を回る人。反対側に行って見えないけれど、待っていれば、またあの笑顔に出会える?

いいえ、今見てるものは違う。何を見てたか思い出せないことよりも、もっと大切なことはあって。。